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2016年映画『クリーピー 偽りの隣人』感想

2016年映画『クリーピー 偽りの隣人』(監督/黒沢清)観賞。
こういう映画を観るとつくづく思う。お隣さんやご近所の方とは必要以上に仲良くなりたくないなって。

西島さんは元警視庁、現在は犯罪心理学を教える大学教授、高倉役。
妻、康子に竹内結子さん。引っ越したばかりだと言うのに嬉しさも感じないような妙な閉塞感からふたりが倦怠期の夫婦だと判る。やがて近所に住む謎めいた人物、第一印象は酷かったけれどその後は妙に口の上手い西野(香川照之さん)がゆっくり康子に接近し始める。ある日、高倉は西野の娘、澪(藤野涼子さん)から西野は「本当の父親じゃない」と高倉に訴えて来る。西野は危険過ぎる隣人だった。

作品全体が息苦しい閉塞感に覆われていて具合が悪くなりました。そして黒沢清監督作品に慣れていないせいか、色々な疑問が浮かんでしまって気になって若干注意を削がれたりもしました。

康子が、お隣さんは変わった人だ、と言いながらもシチューを作って持って行ったり、一家三人が行方不明になった事件を調べる高倉が凄惨な事件なのに被害者(川口春奈さん)に対して「面白い」と口を滑らせたり、警察官が何人もいながら西野が仕掛けた同じ手口でひとつの部屋に吸い込まれて行ったり、みんながそれぞれ少しずつおかしくてすべてに違和感を覚えた。

物語を追って行くのもきつくなったので(閉塞感で)最後まで観たけれどギブアップしたような感覚でした。解決したようなそうでないような、乗り物酔いをした感触を残して観終わった。なかなかきつい映画体験でした。
しかしその後、ギブアップと思ったのが悔しくて再度鑑賞を決意(笑)するとこの作品は実際にあった行方不明事件を題材にしていたと知った。かなりえぐい映像だったのでその事件が実際にあったなんて、と、数々の恐ろしい殺人シーンを思い浮かべては戦慄。気持ち悪いと思いつつも観たのはもしかしたら私も西野に操られていたのかも知れない。

そして、日を改めて再度鑑賞すると、驚いたことに光の動き方だとか小物だとかエキストラの俳優さんだとかがあらかじめ決められたように動いていることに気づいた。そこで思わず「うわっ」と声が出ました。怖かった。
高倉も、最初からどうも空気の読めない意見ばかり言うし心を感じないので、ただの奥さん思いのいい人だけには見えない。何かおかしい、と思ったら高倉自身が西野と同じ資質を持っていたからだ。興味の方向性が違っただけで。そこに気づくとまたしても戦慄。高倉も、好奇心を持てばそれがもしも犯罪だとしても抗えない人だと思うからだ。
最近、西島さんは柔和な役柄を演じることが多かったこともあり、勝手に「いい人」「正義感の人」と脳内変換してしまっていたのでしょう。しかし、不自然なくらい抑揚のない無機質な台詞の言い回しは、やはり狂気だ。けれど、だからこそ最終的に西野の思惑からは逃れることができた。
不憫なのは、あまりにも日常からかけ離れた恐怖を味わってしまった康子だ。彼女のこれからを思うと気の毒になる。その康子役の竹内結子さんが、ラストシーンで高倉に抱きしめられながらも自らの手は浮遊し、かと言って突き離す訳でもなく、激しく叫び出す。壮絶だった。悪夢から解き放たれたはずなのに、その叫びが一抹の不安をこちらに残したまま映画は終わる。

『ドライブ・マイ・カー』を観た時、誰かが黒沢清監督っぽい、と言っててその時はピンと来なかったのですが、いざ黒沢作品を観てみると純粋に世界観に埋没していく感じ、ゆるゆると景色が揺らいだり、小物の写し方の幽霊感に(言い方よ)納得しました。何本か観て初めて判ることがありますね。少しでもそんなふうに色んな監督の作風が判るようになれたら、もっと面白くなるだろうな、と思いました。
ちなみに、作中マックスと言うわんちゃんが出てきますが無事です。普通に最初から最後まで可愛いので未見の方、そこはご安心を。

鑑賞後に観ると改めてゾッとする映画ポスター

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