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2015年ドラマ『流星ワゴン』感想

2015年ドラマ『流星ワゴン』(監督/演出 福澤克雄、棚澤孝義、田中健太)鑑賞。まずはあらすじを。

永田一雄(西島秀俊さん)は死んじゃってもいいかな、と思っていた。
仕事はリストラ、妻(井川遥さん)からは離婚、子供は受験失敗で引きこもり。地元で入院している父親(香川照之さん)を見舞に行った時に貰える交通費の余りで何とか暮らしている有様。その父親も癌でいつ死ぬかも分からない。父親の見舞帰りに駅で酒を飲んで酔っ払っていると、ロータリーに1台の車が停まっている事に気が付く。その車には5年前、偶然見た新聞の交通事故の記事で死亡が報じられた橋本親子(吉岡秀隆さん、高木星来さん)が乗っていた。言われるがままにその車に乗り込む一雄。そしてその車は一雄を、人生の分岐点へと連れ戻す。降り立ったのは、仕事の途中で妻を見かけた日。他人の空似だろうと仕事に戻ろうとした所に、一人の男が目の前に現れた。一雄はその男の事を、よく知っていた。その男は今の自分と同い年、43歳の時の父親だったのだ。(※原作では38歳だが演じる俳優さんに合わせて43歳に変更)

Wikipediaより

ほぼ何の知識もない中観始めたので悉くイメージと違い、とても驚きました。ポスターのファンタジックな感じからコミカルさを交えた心が温かくなるドラマなのかな、と、ぼんやり思っていました。まさか死人が現れたり、タイムスリップしたりするなんて思わなかった。(総合的にはコミカルさを交えた心が温まるドラマでした。)

一雄の前に突然若くなって現れた父親は「チュウさんって呼べ!」(忠雄の忠の字から)なんて言って、本来病床にいるはずなのに息子と同い年で体も軽いためはしゃぐ姿はチャーミングだが、一雄が持つ父親としての忠雄の思い出はもあまりにも厳しく、子供からすると理不尽極まりない態度だ。しかも前半ではその理不尽さしか描かれないので軽く言っても地獄だ。
そのように途中があまりにも辛くて、最初は家族思いの一雄が息子からも妻からもひどい仕打ちに遭い、また、激しい気性の父親、忠雄に1mmたりとも共感できなかったので最後まで鑑賞できるだろうか、と思っておりましたが、話が進むうちに一雄や妻や子、父親の善悪の問題ではなくて、一雄自身にも問題があるぞ、と判って来た。

そしてリアルだな、と思ったのはタイムスリップものではありますが、作中喩えで出て来た「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいに過去を変えると未来がより良くなる、と言うのは一切なし。一度過去のエピソードを解決できたと思っても、次の瞬間、橋本の車に戻って違う時代に行くとそれらの記憶は残っていない。その中で一番個人的に歯痒く感じたのは、やはり一雄だ。

もちろん精一杯がんばっていた。家族のことも彼なりに思っていての色んな行動だ。ただズレてる。自分が思う幸せに家族を当てはめようとしている。それらは激しい気性だった父親の影響が色濃く出てしまっていたから。絶対に忠雄のような父親にはなるまい、と決めていたのに別のやり方で、ある意味、忠雄と同じ勝手な生き方になっていた。それらを解決していく段階が……辛かった。演じる西島さんもほぼ全篇泣いているんじゃないか、と思うほど泣くシーンだらけだった。
西島さんと香川さんが共演すると、どこか『ダブルフェイス』や『MOZU』のようなハードなシーンが出てくるんじゃないか、と思いましたが、一雄の役はとても弱いので逆にチュウさんにぶん殴られたりする。しかも殴り返せない。でもそんな情けない、べそをかくような泣き方をする役がぴたりとハマっていた。
子供に対してどうしてそこまで従順なんだ! 逆に妻、美代子に対してはなぜそんなに勝手にひとりで決めてしまうんだ! と、見ているこちらがヤキモキするほど不器用この上ない人で、しかも夫としてと言うか、ほぼ主婦みたいに家事(料理以外)や金銭管理などだけは完璧なので美代子が息詰まるのも判る。
それでも様々な人生の転換期に時を越えて降り立ち、その都度一雄は強さを身に着けて行き、父親の気持ちも少しずつ理解するようになる。チュウさんの役が派手派手しい動きでいちいち目立つので、一見主人公はチュウさんのように思えるが最終回に向かうにつれ、一雄の存在感が増して行く。理想ではなく現実として妻や子、父親と向き合い、心から素直になった時、確実にこれは永田一雄の成長物語なのだ、と思った。

思いの外精神的に抉られた作品でしたが、丁寧に作られていて、特に健太役の子が素晴らしかった。そして! 奇跡を待つのではなく、懸命に作って来た一雄が運命に勝利するラストです。

あ、最後に。死ぬことはないですがワンちゃんが怯える目に遭うシーンがあります。これから観る方はお気をつけて。

ドラマポスター。舞台である広島県鞆の浦の美しい景色も印象的でした。

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幸坂かゆり
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