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どうしてせっかく直接会わずに済むリモート会議だと言うのに、ケンカになってしまうのか。まあ、上司とは言え、プライベートのことで説教めいたことを言われたのだからこちらが下手に出ることはない。だからそのままを口にした。すると相手はムッとした。自分から言い出したのに、それはないだろう。 とりあえず時間が来て「それでは後ほど」と言って画面を消せるのはいい。相手を削除できたみたいでそれはそれでスッキリはする。しかし、もやもやした気持ちが収まらない。 よし、飲むか。 冷蔵庫を
「楠田、一杯付き合え」 12月。 私、楠田美緒は会社の仲間たちとのごく軽い飲み会を終え、そのまま帰路に向かおうとした所で、先ほど別れたばかりの先輩上司にこのように声をかけられた。 先輩とは普段から割とストレートに物を言い合う仲ではあるが、突然背後からこんな乱暴な口調で声をかけられたので驚いた。 「え? 先輩、車に乗って来てるじゃないですか」 「あれだよ」 先輩が指をさす方向を見ると、コンビニエンスストアだった。 「最初からそう言って下さいよ。突然『一杯付き合え』
午後23時半のコンビニエンスストア。霧が深い日でかなり視界が悪い。 僕はこういう霧を悪くないと思う。もちろん車を走らせたりするのは注意が必要だし、気を使う。でも景色として、風景として。うん。悪くないよ。 田舎のコンビニエンスストアの灯りだって、霧の中だと何となく外国みたいじゃないか。 しばらく掃除をしたり、商品を揃えたり、せかせかしていたが、 とうとう暇だと認めざるを得ないほど客足が途絶えたので、ドアを開けて外を眺めた。 月も、もわもわしてる。等間隔に並んだ道路の照明灯は幻
年々、暑さが増して行くような夏だ。 私の職場の窓からは、向かいの公園でランチを食べている社員が目に入る。 彼らの目の前には噴水があり、目には涼やかに見えても多分水はぬるま湯に近いだろう。何より木陰でも十分暑いのに、よくあの場で食べる気になれるものだと思う。 昭和頃の日本では37度なんて気温、なかったはずだ。 だからと言って、地球温暖化だのと色々言いたくない。もちろん大事なことなのは判ってる。 ただ、今それを考えるには暑すぎる。この暑さが落ち着かないまま考えてしまうと、体は
こんな夜中に鳥の声なんてするのだな。 ふと、夜空から目を外し、木々の辺りを見渡してみる。なんという鳥だろう。本来ならば朝に似合うような高く、細い声だった。 いつものコンビニエンスストアに行く途中、そんなふうにふと、足を止めてしまうことがよくある。だから多分、僕はあまり人混みなどは向いていない。後ろから歩いて来る誰かとぶつかったりもするし、そうなるとどれだけこちらが謝っても急いでいるような人たちには通じてくれないからだ。そして妙に悲しい気持ちになってしまう。そこまで繊細