【読書録】中村文則『教団X』
戦争に代表される全体主義的思想を支えるのは「気持ちよさ」であり、軽薄な自己が大義に飲み込まれることで人間の凶暴性は解放される。
戦争の裏にあるのは大国たちの思惑で、そこには愛国心や世界平和への祈りなど存在しない。兵士より民衆より重要視されるのは、巨大化した軍需産業が利益を得ること。戦後の復活で利益を得ようと目論む企業たちも存在する。企業の利益のために多くの人が死ぬ。それが戦争の意義で、戦争が無くならない理由で、この世界の構造。
「やりがい搾取」や「愛情の搾取」っていうのかな。逃げ恥で話題になった言葉。
私たちは、私たちの奥に潜む「気持ちよさ」への欲求をくすぶられて、踊らされている。
えっ意味わかる?自分なりに噛み砕いたけど、私にはまったくわかんなかった〜!!
ただ、本作において著者が伝えたかったのは(これも合ってるか分からないけど)、「全体主義への警鐘」なんだと思う。
長いものに巻かれるのって楽ですよね。
集団に所属して、その集団の方針をあたかも自分の意思であるように振る舞うのって良いですよね。
自分では何も考えず、ただ周りに流されて鼓舞されて、自分に役割があるように錯覚する。自分を集団の重要な一員であるように思い込む。それって本当に「気持ちいい」ですよね。
それで良いんですか?
戦争で死んだ兵士たちは英霊ではなく犠牲者として描かれた。
教団Xの信者は救済を受けることなく、教祖が自ら望んだ破滅への物語のピースに過ぎなかった。
「気持ちいい」は、大義に飲まれることでしか感じられない喜びではない。
美味しいご飯を食べた時、美しい風景を見た時、美しい音を聴いた時、温かな感触に触れた時。生きていたら、その中で、どんな小さなことでも肯定できるものがある。
私たちは「気持ちよさ」を得るための努力を、他人に任せてはいけない。それも間違った大義のために。
単細胞生物であるゾウリムシにさえ「個体差」や「自発性」があるんだから。
自分にとっての「気持ちよさ」は、自分自身で探さないといけない。
私の頭ではこの結論を出すので精一杯だった。
『誰に何と言われようとも、私は全ての多様性を愛する』
社会人になる前に、この本に出会えて良かったのかもしれない。