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みかぱんち! または『シスター系Vtuberみかちょ』は如何にして地上最高のスーパーヒーローの栄誉に輝いたか

 Vtuberの総人数は日本で確認されている異能力者の1/10にも満たないらしい。だから異能力者のVtuberだって決して不思議な存在ではない、はず。

「むう~このっ、このお方ガードが硬いです!」

 私『シスター系Vtuberみかちょ』もその1人だった。登録者数4500人、視聴者数67人、格闘ゲームの配信中。胸元がはだけた私のアバターが重苦しい表情に切り替わる。

≪manaka【痴漢】: ガンバって!≫

≪シモ【家賃の滞納】: 一体ナニが硬いのかな?≫

≪金杏OJI【パワーハラスメント】: 投げキャラは全員死ね≫

「あう〜ッ!やられました!」

 画面いっぱいにK.Oのテロップ、コンボ技を決められ1ラウンド先取された。私はわざとらしく悔しがるそぶりをする。チャット欄を脇見していた隙を突かれたのだ。

 ……そう、チャット欄の【】は何なのかという話について、それは私の「他人が犯した罪をインターネット越しで認知する」能力。私を推してくれるリスナーの秘め事も、SNSの有名人の不祥事も、私にはすべてがお見通し。そして、画面の向こうのマッチ相手の罪状も。

【異能力を用いた拷問・放火殺人】

 対戦相手の繰るキャラの頭上に表示されている文言だ。彼は胸糞悪くて、しかし日本ではごくありふれた異能犯罪者だった。

 私の力では彼をどうすることもできないけど、だからせめて、ゲームではこんな奴に負けたくない。

「次こそ勝ちます……えいっ!」


 ――――――  


「かー萎えるわぁ」

 男はコントローラーを放り投げた。シスター系Vtuberなどというふざけた女にゲームで敗北した、それがよほど屈辱的だったよう。

「気晴らしに浮浪者でも焼くか」

 男は掌に青白い炎をゆらめかせながら後ろに振り返る。彼の真後ろには『みかちょ』の顔面がプリントされた覆面を被った筋骨隆々の人物が佇んでいた。

「は?」

「こんにちは!シスター系Vtuberです!」

 襲撃者は正拳突きの構えをとった。

【続く】


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