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小池都知事の選挙戦から考えるPR

みなさんこんにちは、
このNoteでは、ニュースになった出来事について、PRの観点から分析を加えていこうと考えています。

初回となる今月は7月7日に投開票された「東京都知事選挙」についてです。
この選挙で3選を決めた小池百合子都知事ですが、選挙戦は実に多彩な話題がありました。勝者である小池百合子都知事の戦略を中心に改善点を考えていきましょう。
全体的に「横綱相撲」を繰り広げたようですが、ところどころ、細かな綻びや改善点が見られたのではないかと思います。

出馬宣言のタイミング

 まず、出馬宣言についてです。6月20日の告示に対して、6月12日の都議会最終日の宣言となりました。現職は常に言及される立場にあるので、なるべく最後まで焦らしたというのは大正解だと考えられます。「都政にまい進する」という小池知事の言葉もありましたが、早めに宣言してしまうと都議会開会中の質疑などが選挙に関する内容で埋め尽くされるという知事の考えもあったのでしょう。

 しかし、欠点もありました。都議会初日の5月29日に出馬宣言を行うという報道が先行したことです。おそらく、一部の都民ファーストの都議が画策したのでしょうが、この情報管理の甘さは致命的ではありました。ほかにも「もっと」というキャッチフレーズの漏洩や、公約の報道先行などの情報管理、情報の保秘が今回の小池知事の一番の弱点となっていたのではないかと考えています。

SNS戦略

 情報という面でいうと、動画も賛否を集めました。SNSを使った動画戦略も担当者の意識の低さが目立つものだったと考えられます。小池知事の学歴疑惑を払拭すべく公開したと考えられる、アラビア語を話していた過去の知事自身の映像を視聴して小池知事がコメントするという動画が一夜にして削除され、「アラビア語が稚拙という批判から逃げた」としてプチ炎上していました。

 実態はテレビ東京の権利を侵害していた恐れがあるとのことのようでした。翌日、修正されて再投稿されていましたが、権利関係を疎かにしたということと、なんの言及もなく削除したという2点が大きなミスで、PRの視点からすると論外の行動でした。仮に権利を侵害していたとしても動画をアップロードすることが大切という考えもあったのかもしれませんが、犯罪の可能性があり、倫理観が欠如しています。
 
 そして削除する際にも「使用した動画の権利関係に不明瞭な点がありました。申し訳ございません、後日、修正のうえ、再掲いたします」などとするだけで炎上も避けられたのではないでしょうか。動画もただ作れば良いということではなく、何をメッセージとして発信するのかという課題設定が重要になるのです。

「AIゆりこ」

 動画への賛否と言う点では「AIゆりこ」も話題となりました。「政治家は自分の言葉で話すべきだ」という批判がみられましたが、技術の使い方も課題になります。「ディープフェイク」を追認するようなことにも繋がりかねず、AIの政治利用が認められるのかどうかなど、AI倫理という側面からも検討すべきです。この辺りは国政で議論されるべきことですが、PRに求められる倫理観という側面は重要な論点です。

 「AIゆりこ」は話題を集めるという点では成功したのかもしれません。しかし、より効率的な使い方ができたのではないかと考えられます。初回の動画のトピックが「所得制限撤廃」、告示日のメイントピックが「AIゆりこバージョンアップ」など、「AIゆりこ」を使っていることだけに満足していて、相乗効果や視聴者を意識していないと断言できるものです。
 
 先程のアラビア語動画とも通じるところがありますが、詰めが甘いと言わざるを得ません。突然の登場だったため、実態は政治活動用につくられたものだったにも関わらず、元都幹部から「税金の私的利用」と断罪されていました。後半では「リアルゆりこ」による巻き返しが図られていましたが、総じて「忙しい都知事に変わって政策を発信する」という大目的を見失っていたように感じます。

政策

 政策というところだと、都知事の公約もスッキリしているとは言い難い物でした。現職として都政の推進や継続を掲げることが王道のはずですが、全体的にチグハグで小粒だったのではないかと考えられます。選挙を意識して編成しているであろう24年度の都の予算の中0では、「人が輝く」「国際競争力の強化」「安全・安心」の3つの観点を謳っていたのですが、この観点を継続して語るべきだったのではないかと思います。

 実際には「セーフシティ」、「ダイバーシティ」「スマートシティ」という「3つのシティ」ということを掲げましたが、都政との関連性、連続性の説明は資料の中に見られませんでした。政策公表時の都知事の会見は歯切れが悪く、納得していなかったのではないかと思われますし、翌日からは小さな字で書かれていたはずの「首都防衛」が題目になりました。

 政策そのものについても、経済をどうするか、地域格差をどうするかなど、大局観に欠けていましたし、細かな政策につなぐための中項目について、なぜそこなのかというメッセージが欠けていたのではないかと考えられます。目玉として掲げていたはずの「無痛分娩の補助」も、選挙期間中に実効性などに度々疑義が呈されましたし、出生率が0.99となる衝撃の中で、少子化対策にクリティカルに作用するとは言い難いものだったのではないでしょうか。概して、大目的が見失われていたように捉えられます。

政党間の協力について

 
 逆風の自民党との関係も話題になりました。ここは陣営が自民党を押さえ込んで主導権を握らせなかったことや、国政与党の色を消し去ったことは非常に高く評価するべきです。しかし、マニアックな話をすると、同日選となった足立区など一部の都議補選で候補を立てず、9選挙区のうち半数以下の4選挙区への候補者擁立となった時点で、都民ファーストは終わっており、自民党に足下を見られかねない危機的な状況でした。

 特に足立区は都議選では6人当選者を出す選挙区で、都民ファーストの現職は政策立案等に深く関わったとみられる政調会長1人だけでした。2017年の都議選では都民ファーストは2人の当選者を出しており、都議会第一党を狙うなら、2人目となる候補の擁立は必須です。なぜ今回、足立区で候補を立てなかったのかは謎ですが、自民と立憲の一騎打ち、与野党対決となった構図を都知事選でも引き継がなければならない可能性が大いにありました。

 小池陣営が戦略を「都民ファースト、自民、両方ともに与しない」としたため、結果として与野党対決の構図は避けることができました。最終的に自民党と敵対した選挙区を含めて4人中3人が当選するという小池知事の勢いを示す結果となりましたが、今回当選者を2任出した自民党を3人差で追っていた都議会で最大の人数を占める第一会派となる好機を逸してしまっています。

 都民ファーストという政党としての目的、小池支持が自由に都政運営を行うためには、自民党との親しいながらも是々非々の関係構築とともに都民ファーストの会の最大会派としての立場が必要でした。足立区などでの判断が都政運営に大きく影響したと言わざるをえません。

蓮舫氏の戦略

 与野党対決と言う意味で利を得るのは元立憲民主党の参議院議員である蓮舫氏のはずでした。しかし、公約の公表を遅らせてしまったため、批判に終始してしまった印象は拭えないものでした。公約も小池知事への対抗意識を必要以上に高めていたにも関わらず、小池知事が報酬を半減していることを受けての蓮舫氏自身が当選した場合の報酬について「仮定に関する質問にはお答えできません」と答えるなど、検討が弱かったのではないかと考えられます。

 「仮定に関する質問にはお答えできません」はPR会社による会見の事前レクチャーでも伝えられる代表的な項目です。謝罪会見や企業の商品発表会では一般的ですし、政治家の逃げの答弁でもよく使われます。しかし、今回は違います。すでに実施されている施策の継続性を問うものですし、「当選後」を「仮定」としてしまうなら、公約自体が「仮定の項目」なので、会見の質疑すべてが「仮定の質問」です。
 
 危機管理なども求められる時代ですので、本質的に「お答えできない」可能性がある仮定の質問は、「小池知事に副知事を打診されたら」など、「第三者の仮定の行動をもとにした自身の行動」という、仮定の上に想定を重ねなければならない項目についてです。

 与野党対決を狙いつつ、共産党が前面に出てきたことで「立憲共産党」と揶揄されることになったのも蓮舫氏にはダメージでした。与野党対決だからこそ、政党色を薄めるべきでした。国政とは違って直接民主制ですので、敵をも包み込む包容力が求められます。野党なら批判でよかったのかもしれませんが、都知事に求められるものは違います。批判ではない建設的なメッセージの発信が弱かった結果として、想定以上に票を伸ばせなかったのではないでしょうか。

都知事選の全体像

 PRはなによりもTPOが大事です。その観点からすると、前広島県安芸高田市長の石丸氏の公約である「地方活性化」は都知事として都民に訴える政策ではなかったといえるでしょう。ただ、それでも既存政党の枠を嫌う受け皿となって多くの票を得ました。
 
 石丸氏の場合、YouTubeやSNSなどのネットメディアを効率的に使って動画配信者やインフルエンサーを巻き込みながら雪だるま式に盛り上げることに成功したということも大きな特徴と言えそうです。キーメッセージとブームが合致すれば勝利も見えた可能性がありましたが、蓮舫氏との2位争いが熾烈を極めた結果として話題を集めて票が伸びた可能性もあり、検討が必要となります。

 一方、選挙戦そのものは売名目的などで候補者が56人乱立する、中でも風紀を乱す可能性があるポスターが掲示されたり、ある政治団体が24人を擁立して掲示板の枠を宣伝用などとして「販売」したりするなど、これまでの常識では考えられないものでした。

 「炎上マーケティング」という言葉もありますが、まさに倫理観が崩壊している、違法でなければ何をやってもいいという非道徳が課題です。都知事選に関わらず、社会全体に問いかけなければならないのではないでしょうか。

今回のまとめ

 最後に今回のまとめです。単純化すると以下の4点に絞られます。
・目的や課題設定を重要視し、メッセージの一貫性を保つよう計画する
・関係者間の調整、情報のコントロールを徹底する
・注目を浴びるタイミングでの相乗効果を狙った発信を行う
・道義的、倫理的にどうなのかという視点を忘れない

以上になります。
取り上げてほしいというテーマや、ご意見、ご感想もお待ちしています!


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