伝えそびれた言葉に祈りを添えて
ありがとうございます。ペンを受け取ると彼女はいった。
ただそこにいるだけで汗が噴き出すほど暑い。
高校生5、6人が駅前で核兵器反対の署名を呼び掛けていた。
名前と住所を書き終え、会釈とともにペンを返すと、彼女は再びいった。
「ありがとうございます」
ありがとうございますの言葉が胸の中で繰り返された。
改札を通りながら、駅のホームに向かう階段を登りながら、彼女の「ありがとうございます」が何度も響く。
お礼を言われるのって、なんか違う気がするんだよな……。
ホームで電車が来るのを待ちながら、やっとその理由がわかった。
「ありがとうを言うのは君じゃない。僕だわ」
彼女が暑い中いてくれたから、僕は平和を願っていることをちゃんと伝えられた。
彼女は高校生なのに偉いな。僕は大人なのに何もできていない。
それならせめて、署名を集める彼女に感謝を伝えたかった。
*
僕は広島で生まれて広島で育った。
平和を心から願う