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赤い自転車と優しい嘘

小学校で初めての参観日。
校庭狭しと並ぶ保護者の車と、鮮やかな緑の葉をつける桜の下にぽつんと置かれた色褪せた赤い自転車。

授業が終わり、娘はできたばかりの友達に「一緒に歩いて帰る?」と聞いた。
その子は「お母さんと車で帰るんだ」と笑って答えた。
娘は「じゃあ私も車で。」と言ったあと「あっ。おとうさん、自転車だった」と声を落としながら言った。

校庭に向かう人の流れからゆっくりと離れ、娘と赤い自転車に向かう。

僕が「自転車で来たの、恥ずかしい?」と聞くと、娘は「全然そんなことないよ」とにっこり白い歯を見せて笑った。

娘を抱き抱え、後輪の上に固定された座席に下ろすと、僕は校庭にハンドルを向けた。

「ちょっと待って」
ペダルを漕ごうとした時、後ろに座る娘に呼びかけられた。
「どうしたの?」
「あっちから帰ろうよ」

娘は影に伸びる小道を指差した。
家まで少し遠回りになるけど、嬉しそうに車に乗り込む親子で溢れる校庭を通らない細い道。
僕は向きを変えてペダル漕いだ。

「やっぱり自転車で帰るの、恥ずかしかった?」
小道をゆっくりこぎながらたずねた。
「うん。さっき嘘ついた」
背中にいる娘がどんな表情をしているかはわからない。
「どうして嘘をついたの?」
「おとうさん、悲しくなるかなと思って」
「……そうか。……優しい嘘だね」

娘にはその言葉の意味がわからなかったようだった。
いつか大きくなったとき、その意味をわかる日が来るだろう。

意味のわかる大人になった僕は都合を合わせる嘘ばかりをついている。
どうせなら優しい嘘つきになりたいと思う。
だけど僕はその嘘にすら、きっと見返りを求めている。

次につく嘘は何も欲しがらない誰かを救う嘘にしよう。


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