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過ぎてく日に走り書き

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#小説

娘の築いた時間と父

「おとうは出てこないで」 小学二年生の娘は、その体に不釣り合いな大きな掃除機を抱えて、せっせと掃除に励んでいる。自分がこれから使うところだけ。 秋晴れの清澄な空気がカーテンレースをほどよく揺らす。ずっとそこに居座るように見えた入道雲はいつの間にか姿を隠していた。 娘が友達を家に招待した。 学区内の保育所に入れず、彼女は誰も友達のいない小学校に入学した。周りは既に友達のコミュニティが出来上がっているなかで、他人なのは彼女だけだった。 学区が違ってもすぐに友達はできるか

歳をとるということ

「人を想う」のはJTだけではない。そんなことにふと気づいた。 知り合いにお薦めの本を貸すという話。 お薦めを聞かれるという経験は多くの人にあると思う。僕もこれまで何度か、映画や音楽、飲食店、服、車・・・とお薦めを聞かれては答えてきたのだけど、今回はこれまでと違った気がする。 本を読まない職場の後輩。その子に小説を貸すことになった。 先輩にすすめられて、嫌だけど、読まなきゃ。みたいになるのは嫌。だけど、これを機に本が好きになってくれたらいいなと、本棚の前で、頭を捻る。どん

サッカー部からバレー部員になった話

高校に入り、暇を持て余した僕の元に知らない先輩がやってきた。その理由は僕らが暇を持て余していると噂で聞いたから。 僕は同じ中学サッカー部出身の三人とつるみ、アフタースクールをゲーセンに通って過ごしていた。 そんな僕を勧誘に来たのは短髪の男子バレー部キャプテン。 身長170cm。友達なんて165cm。高校バレーでは不利になるほど小さい。そんな僕らをキャプテンが誘いに来た理由はただ一つ。新入部員が一人もいなかったから。 中学のサッカー部はそれなりに強かった。県で二番になっ