マッサージ屋は人の人生を眺めることがある②

或るマッサージ屋の日常

出張の予約が入った
今回は60分の出張で指名、3回目くらいのお客様

風貌は身長はそれほど大きくなく、少しやせている
あまり血色は良くなく、いつも疲れているのようにも見える
髪の毛は短すぎず、すごく長いわけでもない
どちらかというと印象のそれほどない若い男性だ

アパートの二階へ上がり

ピンポーン
車で行く距離でもなく、歩いて10分程度の距離だ

どうぞ、開いてるんで!
とドアの向こうから元気な声がする

失礼しまーす
と入っていく、これもこのお客様はいつものことだ

そして必ずベットに寝ている
毎回ベットで施術を受ける

そして毎回目に付くのが、壁に刺された公共料金の支払い書だった

今日はどんな感じですか?
一応聞く

全体的にほぐしてください
といい、あとはだいたいお客様は黙るのだ

一度だけ話してくれたのは

僕はホストをやっているんです
ということだけ

部屋の中は、女性の服が掛けてある
中性的な部屋だがぬいぐるみが置いてある

スーツなどは見当たらず、大きめのベッドとはいえセミダブルくらい
同棲されているようではあった

その後数度お伺いしただろうか、その後僕はその店をやめた

4か月後くらいにまた別のマッサージ屋からオファーがあった
この頃は長野のスキーリフトの住み込みバイトを終え、一か月ほどスロ専業をしていた
断る理由もなかったため、オファーを受けた

半年ほどホテルや湯治場での勤務を終えた後
市内のマッサージ屋に配属された

出張マッサージの予約があり、男性指名
とりあえず僕が行く

近場で10分かからない場所だ

一階が居住施設ではなく、階段のみの作りになっていてオートロック
二階に上がってインターホンを押す

ピンポーン
マッサージの□□です~

どうぞ!開けますね!
と若い男性の声

失礼します~
と入っていく

もう一回失礼します、といった後にお客様のお宅へ入る

中は1LDKでキッチンは別、風呂トイレも別
リビングは9畳もう一つの部屋は6畳の部屋だ

なぜ詳しいか?
それはこのマンションにその後住んだことがあるからだ
追いかけたわけではない、たまたま見つけた広くて安くてよい物件だったからだ

…は置いといて

今日はどんな感じですか?
と聞くと、全体的にもんでください、疲れてるんで~
とのこと

その後黙ったまま施術を受けている

部屋の中はがらんとしている
生活感のない部屋だが、きれいに掃除されていてより一層生活感が消えている

そして壁にピンで刺された公共料金の支払い書が目に入った

おや?と思い名前を見る
すると前のお店のお客様なのだ

おお、声をかけようか
と一瞬思う

しかしマッサージ屋というものはそういったことはしないほうがいいと判断した
もしかすると名前を確認することで、その人が嫌がる可能性があるからだ
ご予約の名前が偽名であることもあるし、偽名であっても問題はない
ゆっくり施術を受けることのほうが優先だ

それに施術開始から無言だったため、声が掛けずらいというのもあった

施術が終わり、料金をいただく
それで今回は終了だ

その後は指名で予約が入るようになったが、お互いに確認はせず数度ご自宅へお伺いした

そうこうするうち、僕は師と仰ぎたい人物と出会うこととなりそのお店を離れた
師匠には一度断られたが、4か月ほど粘り雇ってもらった

そのお店は3店舗目となるが、その間に3か月ほどいたお店があるので実際は4店舗目のお店になる

そこで出張予約が入った
男性指名だ

車で15分ほど、ススキノ寄りのちょっと離れたとこにあるマンションへ向かう

入り口が大きい、必要ないほど大きい
入り口のインターホンを押す

ピンポーン
▽▽マッサージです~と、一歩下がって話す

部屋のドアも開けておきます!そのまま入ってきてください!
と、元気な男の人の声がする

わかりました!お邪魔します~
と入る

入ってみて分かった

すごいマンションだ
かなり広い、廊下がL字型で片道40~50メートルほどある
家が並んでいるわけではなく、ドアは4つしかない

これほど広いのに1階毎に4部屋しかないのだ

これは高級マンションだな‥
と思うよりなかった

一応もう一回インターホンを押す

ピンポーン
開けてます~どうぞ!
と、若い男の声が聞こえた

失礼しまーす
と入ってみると…

玄関だけで4畳ほどある
入るとすぐに対面キッチンになっており相当にオシャレな作りになっている
リビング以外ではだいたい玄関込みで横に6~7畳分
リビングは15畳ほどもあるのだろうか
部屋の横にさらにドアが見える

そのリビングにベットが置いてある
部屋の無駄使いとしか言えないほど大きいサイズのベッドが置いてある
横に並ぶと8人は寝れるだろう

そしてそのベッドではなく、絨毯に寝そべるお客様がいた

ここでお願いします
と、かなりふかふかの絨毯の上でいう

わかりました、今日はどんな感じですか?
と、聞くと

全体的にもんでください
といわれた

…ふと、ん?聞き覚えのあるフレーズだなぁと思う

もしかして、と思い部屋を見渡すと

そこには壁にピン止めされた公共料金の請求書を見つけたのだ
支払い書の名前までは確認できなかったが、何となく本人と確信した

しかし確認はしなかった
それがマッサージ屋としての僕のルールだからだ

ゆっくりマッサージを受けていただくことが仕事だ

マッサージを開始する

マッサージしながら最初の頃を思い出す
少しやせ気味でどっちかというと血色は良くなかったと思う
血色はそれほど良くはなかったが以前ほどではない

少し太ったのかな?しかし体は締まっていて筋肉も以前よりある気がする
そしてこのお宅が徐々にランクアップしているのを思い出し

努力されたのだな
と、思った
施術中は黙ったまま、いつも通りだ

指名になり、数度行く機会があった
その際、少しだけお話をする機会があった

自分でお店をやっていること
男性指名なのは、女性だと営業してしまう可能性が高いから気が張ってしまうこと
ホストであるということ

を、教えてくれた
もちろん僕は以前のことは話していない

最後に印象に残っているのは
張り付けられた公共料金の支払い書の隣に、それまでなかった仲間内のような写真が額に入っているのを見たとき

良い仲間に恵まれたのだな、と思ったことだった





実際あった話しか書けませんが、気が向いたらサポートお願いします