声劇台本「表地」「裏地」

▼表地

(お立ち台の上に乗る染め屋)

染め屋:
やあ、どうも。

(染め屋に拍手したり声をかけたりする客たち)
客:わあああ!
客:来た来た、染め屋
客:おおお~!

(染め屋がお辞儀をすると、客たちは静かになる)

染め屋:さて、皆さん。

(バッと赤い布が広げられる)

染め屋:今、目の前に広げられました、この美しい「赤」。

客:(コソコソ声)まあ、綺麗
客:(コソコソ声)なんと美しい
客:(コソコソ声)何かしら?

染め屋:
そう、これはただの染料ではございません。
これは、命の色・・・生きた証そのもの。
普通の染料では決して生み出せない、深紅の輝き。
この色を出せるのは、1つしかありません。
それは、「人間の 血液」です。

客:なんと・・!
客:まあ!
客:キャーーーッ!(怯える声)
客:キャーーーッ!(歓喜の声)  
客:ねえヤバいよ、すごくない……?!
客:えええ?!
客:うわああっ・・・!?
客:ひぃっ

染め屋:
この布は、魂が宿る染め物。
赤は消えず、永遠に輝き続けるでしょう。
あなたの大切な品に、この命の証を纏わせてみませんか?
そうすれば、その品もまた、永遠の命を得ることでしょう。

客:おお~!
客:良いね
客:すごい……!!

染め屋:
さあ、どうぞ。
この唯一無二の染め物、手に入れてみては?

客:買った!買った!
客:仕立て屋はどこだ?
仕立て屋:はい、ただいま?
客:うちの娘にピッタリだわ!
客:素晴らしい・・!
客:今日も上出来だな!

(布に釘付けになる客たちを背に、表舞台から降りて去っていく染め屋)

染め屋:
はぁ・・・。(溜息)



▼裏地

(仕立て屋が染め屋にコーヒー缶を渡す)

染め屋:ああ、どうも。(コーヒー缶受け取り、開ける→椅子に座る)

(仕立て屋が手を揉みながら染め屋に言い寄ってくる)

仕立屋:いや~お疲れ様です!今日も大盛況でしたね!
今回のも大傑作、なんと人間の血液だなんて!

染め屋:くく、はは、あははは!

仕立て屋:?? なんで笑うんです?

染め屋:バカかお前は。本当なわけないだろ。

仕立て屋:え? 

染め屋:あれはどこにでもある染料で染めた、ただの布切れさ。

仕立て屋:ええ~!?

染め屋:本当に血液なんかで染めたら、匂いは臭くてたまらないし、洗えばすぐさま色落ちする。
俺(私)は現実主義でね。ああいう幼稚なのは大嫌いなんだが、売れない物は売りたくないんだよ。

仕立て屋:いやいや、(小声で)バレたらどうするんですか・・!
うちら、大悪党じゃないですか・・!

染め屋:
はっ(鼻で笑う)大丈夫だよ。
今まで、客から苦情が来た事あったか?

仕立て屋:
無いですけれども・・。って、・・え?
もしかして、今までのも全部偽物?!!

染め屋:そうさ。だけど、1度も苦情は来ていない。
それが現実さ。
客が求めるのは真実じゃない、快楽なんだよ。

仕立て屋:そんな・・・。

染め屋:(缶コーヒーを飲む) はぁ・・。
どれだけ綺麗な染め物でも、
どれだけ破れない服を作っても、
「飽きたから」「着られなくなったから」服はすぐに捨てられる。
辺りがゴミの山で埋め尽くされても、
あいつらは求めるんだ。
更に面白い物が欲しいってね。

(染め屋、立ち上がる)

染め屋:ああ。もう嫌になってきた。
(歩き出す染め屋)また明日、よろしく頼むよ。

仕立て屋:え、あ、ちょっと・・!

染め屋:これからも、夢を売り続けよう。




▼あとがき
みなさん、着られなくなった服は、どうしていますか?
現在、世界中で、「ファストファッション」や「ファッションロス」が問題になっています。
https://eleminist.com/article/3369
服の流行は目まぐるしく変わり、新しいシーズンが来るたびに、新しい服が大量生産されます。売れ残った服は廃棄され、買われた服も、「古くなったから」「デザインに飽きたから」「体型が変わったから」そんな理由で、まだ着られる服であっても廃棄されていきます。
着られなくなった服の末路は、6~7割がゴミの山になります。じゃあ寄付すれば良いじゃないか!と、貧しい国に服を送っても、本当に着られる服は一握りです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220218/k10013486591000.html
衣類には、様々な種類の糸が使われています。植物から糸を紡いだり、プラスチック製の糸を生産したり。
服を作るのにも、捨てるのにも、めちゃくちゃ環境負荷がかかるのです。
 https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/index.html
価格が安い服は、本当に良い服なのでしょうか? 着られなくなった服を、可燃ごみに捨てていませんか?

服の世界と、エンタメの世界って、なんか似てるよなと思って、皮肉たっぷりの台本を書かせていただきました。
大量生産、大量消費。飽きたらすぐに新しい物を、面白い物を。古い物はすぐに捨てて、忘れ去られていく。
とりあえず、血液とか死体とか、グロくしとけばええやろみたいな、そういう作品があまり好きになれなくて。
もし私だったら、こんな事言われたらすぐに110番するけどな?!とか、知らない人に話しかけられたら、絶対距離置くけどな?!なんですぐ仲良くなってるんや!?とか。
個人的に違和感を抱く作品を山ほど見かけるんですが、視聴者はそこまでリアリティを求めていなくて、あくまでも「エンタメの世界」という事で受け入れ、推し活だ何だと、もてはやされる。
映えを意識した、売れる為の作品ではなくて、誰かの支えになれるような、心に訴えかけられる作品を、作り続けていきたいな~と思っております。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

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