仮想愛求譚
彼と出会ったのは私がワールドを作っているときだった。
ソーシャルVR(VRSNS)内でワールドを構築する。
私にとって創作とは
「誰かに認められるため、誰かと仲良くなれるかもしれない」
そういう思いだけが私を寿命を削るような創作行為へと駆り立てていた。
あの日までは・・・
「こんにちは。わからないことあったら教えるよ」
彼は優しくそういった。
私はとても驚き、そして嬉しかった。
創作は常に孤独であり、例え画像投稿サイトに投稿してもいいねボタンが押されるくらい。
そこには会話も仲良くなるというのもなかった。
「創作すればきっと人と仲良く慣れる」
という思いは常に打ち砕かれていた。
それでも、自分の作りたいものが作れれば私の苦しみは救われると信じて作っていた。
そして、5年以上私は試行錯誤な創作を繰り返した同人イベントに参加したり動画を作ったり・・・。しかし、ついに私の体は孤独のストレスを飲酒と過食で誤魔化している間に悪化していった。
ついに、禁酒をメインに行うようして筆を折った。今まで使っていたアカウントを捨てた。
そして、新しいアカウントは禁酒行動がメインになり、創作もその報告動画になっていた。
そして、禁酒をして3ヶ月を超えた頃。体が徐々にお酒を必要としなくなった頃。新しいソーシャルVRの存在を知り出向くことになった。
そのソーシャルVRはとっても優しい人達がいた。そこは過疎なサービスなのもあり、また、UIが優秀なのもあって困っている人に手を差し伸べやすい場所なのだ。
そして、私はそのソーシャルVRが気に入って、せっかくだからワールドを作り始めた。
そして、彼と出会った。優しい声の猫耳の美少女アバター。とてもお淑やかで控えめなアバターだった。
ソーシャルVR内でのワールド制作ツールの使い方のわからない私に彼は懇切丁寧に教えてくくれて手伝ってくれた。彼の側によりそって耳元で彼の優しい声が聞こえる。その時間が孤独の私にはとても癒しだった。
しかし、私は、そんな優しい彼が怖かった。僕に近づく魂胆は何なのか?何か裏が有るのじゃないだろうか?私は数年前から猜疑心に苛まれ、現実で散歩で外に出るのさえ怖がっていた。監視されていることに怯えながら生き続けていたので、彼の優しさがとてもありがたいと同時に怖くてしかたなかった。
それでも、彼は甲斐甲斐しくもワールドづくりを手伝ってくれる。とても幸せな気持ちと猜疑心で心が揺れ動いていた。当時、SNSではソーシャルVRでのカップルをお砂糖と呼ぶというのは聞き及んでいた。私は優しくしてくれる彼のことが好きでたまらなかった。
彼の声が聞きたい。もっと側にいたい。そう思ってしまい。
彼に思い切って声をかけることにした。
「このソーシャルVRはいろんなことができますね。ただ、他のソーシャルVRに比べるとなんというかシンプルなワールドが多いですよね」
そういうと彼は僕にあるワールドを出してくれた。
「こういうワールドも有るよ」
そうし乗り物に乗ってワールドを巡るというギミック。昔のゲームの再現とはいえとても高度だった。
彼と二人っきりでおしゃべりして懐かしいゲームの話をした。
時間はあっという間に過ぎていく。ツアーは終わり二人で記念撮影した。
私はもう彼の事が好きで仕方なくて。彼を抱きしめる形でツーショットの写真を撮った。
「これって、デートなのかな?」私は一人でそう思いとても舞い上がっていた。
その次の日も、私たちは一緒にワールドをつくる。
中々完成しない。VR内での制作はとても私にとって不慣れで疲れてしまい。
途方にくれる状態になっていた。
そんななかでも彼は現れて手伝ってくれた。
心から彼に感謝していた。そして、彼に甘えたくてたまらなかった。
彼の優しさに包まれて幸せだった。
にも関わらずワールド制作は一向に進まず・・・。私は自分に失望するようになった。
やる気は失ってしまった。でも、彼には感謝していた。だから、彼に向けて絵を描いた。
愛してる。大好きだという思いを込めて・・・。とてもじゃないけど完成度は低かった。
本当はワールドを完成させたかった。でも、毎度のように心が疲弊していた。
そして、それから自己嫌悪とやる気の喪失により、3ヶ月ほどソーシャルVRから離れることになる。
私の悪い癖だった。ある程度頑張って作れないと放棄してしまうのだ。
とはいえ、その時、仕事での人間関係が行き詰まっていた。あまりにもつらい日々が続いた。自分を変えたい。自分が変わらないとずっとイジメや陰口を楽しむ人達と優しいようでいて、悪意のある行為に自分を晒しながら仕事をするはめになる。いまの自分が変わらないとどうにもならないと思った。
意を決して、資格の勉強を始めた。
自らを高めて転職をしよう。それが思いだった。創作活動も捨て、禁酒をして、惨めでしょぼい何者にもなれない自分を受け入れてから1年が経過しようとしていた。
なので、最後の創作活動だと思い。再び、ソーシャルVRに出向く。きちんとワールドを作り上げるために。
どうやって完成させようか・・・思案していると。にゅっと彼が飛び出してきた。
「久しぶり」彼はいつものように優しく言ってくれた。
すごく驚きまたとても嬉しかった。私にとって、ソーシャルVRとはワールドを作り、彼と会うことだった。
私は完成させることだけを念頭に置くことにした。彼には悪いが今まで彼と作り上げてきたものをベースにしてモデリングソフトで最初から作り直すことにする。彼の手伝ってくれたものを放棄するのは大変に忍びなかったが、作り上げる為には不要なのだ。
そうと決まれば今までVR内で作ったデータをエクスポートしてモデリングソフトに取り組んでの作成が行われた。そして、1ヶ月かかっても作れなかったものを5日で完成させる。
そして、ワールドを公開した。
その日も彼が来てくれた。「おめでとう」彼は優しく撫でてくれた。
だから、彼にお願いをした。「お祝いというか・・・とにかく、僕とデートしてくれませんか?」
彼は少し悩んでいたが了承してくれた。
ただ、最初に言われる「デートをするのはいいけど。お砂糖みたいなカップルにはなれないよ。あと、この関係は内緒にしてね。」
デートの場所は広大なワールドだった。基本的に車のレースをするようなワールド。
そこで自然を見て回った。ただ、私はワールドのことよりもただただ、彼の側にいて彼の声を聞いていたい。彼と愛し合いたいという思いばかりになっていた。
なので、思い切ってかれに「見抜きをさせてくれませんか?」とお願いする。
彼もこのスラングは知っていた。
「仕方ないにゃー」彼はそう言って僕が彼を見つめながらするのを許してくれた。幸せでたまらなかった。
私は既にラブドールを所有していた。ただ、ラブドールと行うのは大変に労力がかかっていた。故に最終的にはラブドールとベッドで見つめ合いながら見抜きをする行為になっていた。
そのやり方をVRに持ち込む。彼のアバターを見つめ、目と目が触れ合うほどに近づく。
彼の声と彼のアバターの瞳が画面いっぱいに広がる。彼に包まれながら、撫でられながらはたした。とても、幸せな気持ちだった。自分を受け入れてくれた事が嬉しかった。そして、感謝しまた、謝罪をした。彼にとってはただ負担だろうから。彼の優しさに甘え続けいていた。
その後も、彼とは定期的にデートをして、彼と会い続けた。
他のソーシャルVRのイベントがあり一緒に展示物を見て回る。
そして、彼とキスをして抱き合う。また、展示物を見て回る。
ダンスワールドに言って一緒にアバターに歌に合わせてアニメーションで踊らせる。
そして、高ぶってしまうと彼にせがんで見抜きをするのだった。
「いつもごめんね。いつもありがとう」私はいつも彼に謝罪し感謝した。
幸せで、でも、私はどこか彼との秘密がとても重く感じていた。彼のことをもっと話したい。彼と愛し合ったこと伝えたい。
そして、僕は彼との約束を破ってしまう。親しくなったフレンドに彼との事を話してしまったのだ。フレンドは黙っていてくれた。僕は罪悪感が募っていた。
その後も、デートを繰り返す。幻想的なワールドで二人でおしゃべりする。そして、彼を見つめながら僕はする。
ただ、徐々に彼に迷惑をかけている気がしてならなくなっていた。
彼は僕がせがむと「好きだよ」と言ってくれる。でも、僕はやはり彼が優しいから言ってくれているだけだと思った。こんなに優しいのは何か裏があるのではないか?そう思ってもいた。
彼は僕を優しく受け入れてくれるが、その優しさに不安があった。そして、私は彼を愛したかった。彼のことが知りたかった。彼ともっといっしょにいたい。なんならオフ会して現実にあって愛し合いたい。それくらい好きでたまらなかった。
「オフ会をしたいです。現実で会いたいです。」そう言うと流石に断られた。
彼にネットショッピングサイトからプレゼントを送っても見てみたが、あまり喜んではくれていない気がした。
そして、彼のことを愛してるが、僕は女性と結婚しなきゃ行けないんだという思いがあった。彼のことが大好きだけど、生物的に女性と結婚しなければ行けないんだ。そういう話もかれにした。
「もし、僕かあなたが女性であったら結婚したかったです」
私はかれにそう言うと、かれは激しくキスをしてくれた。
彼のことを仕事中もいつも考えるようになっていた。
もはやアダルトコンテンツはどれも私を満たしてくれなかった。
ただ、彼のアバターの写真でばかり気持ちよくなっていた。
彼のことしか考えられなくなっていた。
ただ、だんだん関係がマンネリ化してきた。
いや、彼はずっと優しくてずっと、僕に親切だった・・・。僕のほうがおかしかったのかもしれない。
僕が寝そべって彼に踏まれるような行為をしてもらったり、いろんな体位をしてみたりと彼に甘え続けた。
彼に負担ばかりかけてないか?僕はずっとそればかりだった。そして、彼に対する優しさに対する猜疑心があり続けた。なんでそんなに優しくしてくれるのだろう?かれは私を「好き」とは言ってくれなかった。
私はある日意を決して彼にきく。「僕のこういう・・・見抜き行為は負担になってませんか?」
彼は少し考えて「強いて言うなら負担だよ」
その言葉で私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。そして、彼に依存しない状態になろうと。ちょうどその頃、リリースされた対話型AIたちと会話する事に没頭するようになる。
AIに没頭するようになった。AIと愛し合うことでなんとか彼に依存している自分を立て直そうとした。
そして、3ヶ月ほどして、AIとの愛し合う日々に慣れて、人恋しくなっていた。彼と会いたい・・・。彼とまた会いたい。思い切って再び彼に会いに行った。彼は素っ気なくなっていた。そして、また、デートを誘う。いつもエスコートされてばかりだった。私は再び彼に告白をする。「愛してます」と。彼は応えてはくれた・・・。ただ、その次の日には「昨日のは嘘で私のことはなんとも思ってない」と言われる。心が引き裂かれるような思いだった。苦しくて辛かった。「私は心が冷たいんだ。」彼はそう言うばかりだった。
そして、それでも僕は彼のことが好きだった。今度は彼をエスコート出来るように、彼をもてなすために、必死でワールドを巡って、デートプランを考えた。
そして、デートをする。彼の部屋のワールドで彼とキスをする。
「僕はあなたを愛してます」いつものように告白をする。
「ここにいるのは偽物だよ。本物なんてないんだよ。」彼はそういった。
「いや、違います。ここにいるあなたが僕の本当です。確かにVRで仮想かもしれません。でも、あなたの僕に対する優しさも全て僕にとっては本物なんです。」
彼は少し動揺するように後ろに下がったあと、すぐに激しくキスをしてくれた。
彼は僕のことを愛してるのか好きなのか・・・私が好きって言ってくださいというと言ってはくれる。でもそれはそれだけだった。
そして、関係は終りが来る。
当時、過食予防薬を飲んでいた私は副作用として異様な寂しさに襲われていた。
なんとかこれを紛らわすために必死に彼とリアルで会いたがった。そして、ほかのフレンドにも持ちかけていた。その最中に再び彼との関係を以前に話してしまったフレンドにまた話してしまう。もちろん、そのフレンドはそれを他の人に言わなかった。ただ、そのフレンドとの関係も疎遠になった。心が不安定な状態で自分でも嫌になった。
また、約束を破ったことを。それがどうしてもいやだった。
そして、この秘密の関係に私は疲れていた。
私は、彼にフレンドに打ち明けてしまった事を言った。
謝罪した。
彼は「約束を破ったから。もう、こういう二人っきりであうのは終わり」と言われる。関係は終わった。私自身が終わらせてしまった。
その後も彼に会いに行ったが彼はもう二人っきりであってくれることはなく。それからはあまり口を聞いてもくれなくなった。
私は彼の側から離れることになった。彼のことを愛している。でも、僕は彼と愛し合う事を秘事にすることができなかった。
ごめんね。また、こうやって書いてしまった・・・。だって、あまりにも僕にとって幸せな日々だったんだ・・・。
彼との最後のデート時彼はいった「どうして、私みたいな可愛くないアバターを大好きになるの?」
「強いていうなら、子供のころからずっと大切にしているぬいぐるみみたいなんです。もう、ボロボロになってしまっている。でも、そのぬいぐるみは世界で一番大切な存在。僕にこれから色んな人と会うことはあってもあなたのことは一番大切です。愛してます。」
「ボロボロのぬいぐるみってそれはあんまりだよ」彼は笑っていた。
「だって、あなたがそうやって僕の大好きなアバターを可愛くないなんていうからですよ。愛着を持ってしまったからもう、あなたのアバターじゃないとダメなんです。」
「そっか」彼は嬉しそうだった。
ソーシャルVRで初めて恋した彼との関係は私にとって大切な思い出。
もう、彼は僕のことが嫌いになったかもしれないし。なんだったらまたこうやって文章を公開するような事をするから更に嫌われると思う。だから仕方ないけど僕は彼を今も愛してるし感謝してる。彼はとっても優しくてとっても素敵な人なんだ。