見出し画像

風に流される桜

朱里は述べる。

「また、あんた?!」

豊郷も述べる。

「それは、こっちの台詞だ」

「は~」

「三?」

「三だろうな」

「じゃ、いくよ!」


瞬間、空気が凍る。

殺気により。

剣が目にも留まらぬ速さでぶつかり合う。

キンキンキンキン。

音が少し聞こえる。

朱里の剣が光った。

桜剣の名也。

豊郷の剣も光る。

風流剣の名也。

美しく流れる筋肉が動き回る。

踊るように。

魅せるように。

弧をかき、直線をかく刃の残像。

最後の仕上げは空から舞い降りる桜の花びら。

桜剣による幻覚。

それが、風流剣により優しい風に流されていた。

二人が礼をする。

剣舞が終わったのだ。

両仲間からは拍手と畏怖の眼差しが向けられる。

これに、朱里は疲弊していた。

剣舞が終わると、明らかな嫉妬を向けてくる者もいた。戦いを申し込んでくるものもいて、朱里は面倒くささにうんざりしていたのだ。

「すごいね~」

暢気に笑顔を向けてくる子がいた。朱里の能力を利用することなど全く念頭にはないようだ。

「幻術とはすごいですね!いいものを見せてもらえました。過去の文献で調べてみましょう!!知識の探求は楽しいです♪」

メガネの男は研究や知識の探求一筋なので、朱里自身のことなど、興味がないようだ。

「あなたの演武はまるで風に流される桜のようですね」

朱里は、その言葉だけは嬉しかった。

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?