ポータブルHDDが壊れて修復した話
おれの財宝か?欲しけりゃくれてやる。探せ!この世のすべてをそこに置いてきた!
-ゴール・D・ロジャー
6年前くらいに買った外付けHDDドライブが壊れていた。
東芝のCANVIO BASICSというシリーズだ。
すでに古くていつ寿命が来てもおかしくないことは自覚しており、2TBしかないのに貴重なUSBポートを専有するのは業腹でもあるので、新規に5TBの外付けHDDドライブを買って中身を移設しようと考えた。
5TBがやってきてデータを移すそうとしたら、すでにPCにディスクの表示がなかった。病気の親を救おうと金を工面して街から医者を連れてきたらすでに親は亡くなっていた、みたいな悲しい昔話を思い浮かべた。
なにが壊れたのか。外観をみるとUSBの差し込み口が変になっていて、ケーブルが刺さらなくなっていた。差し込み口に耳かきを入れたりして修復を試みたが治らなかった。ケースを破壊して中を確認するとUSBの差し込み口が基盤から離れてしまっているのがわかった。
先日落下させてしまったときに、この接続部に力がかかって壊れてしまったのだろう。顎をアッパーで殴られて首が折れる、みたいな力のかかり方をしたのではないか。
しかしこれは僥倖と思えた。基盤が原因であればHDD本体は無傷の可能性がある。基盤からHDDを剥がすための精密ドライバーと、取り外したHDDからデータを取り出すためのSATA-USB変換ケーブルを注文した。
さきにドライバーが届いたのでまず基盤とHDDを取り外した。取り外したがSATAポートが見当たらない。さらなる解体が必要なのかと思ったが、これ以上バラすと物理的にダメになりそうだった。慌てて調べると価格.com に恐ろしい書き込みが見つかった。
SATAじゃないの??調べると他にいくつもの記事が見つかった。
目の前が真っ暗になった。HDDに入っているのはこの世の秘宝である。お金を払っても二度と手に入らない貴重なエロ動画データが無数に保存されている。これが失われるのは自分自身にとってだけでなく人類世界の損失でもある。
まず接続部の修復を考えた。ネットで業者を調べて問い合わせをしたところ28,000円の見積りが来た。払えない金額ではないが100%直る確証はない。どこかの記事に、回路は基盤の中を通っているタイプでこの修復には非常に高い知識と技術を要するとあった。そして直るにしろ直らないにしろ修理が終われば動作確認を求められるだろう。それは私の社会的な死につながる可能性を秘めている。
同じモデルの新品/中古品を購入し、HDDだけを付け替えればよいのではないかとも考えた。これにも問題があった。流通はあるが東芝が世代により内々の規格を変更している可能性があり同じタイプの基盤を使ったものが届くとは限らない。
さらに調べていくと基盤がアリババで買えることがわかった。どうなるかわからなかったが、とりあえずをこれを電光石火で買った。アリババなんでも売ってるな。
アリババの商品ページにも記述があるし、価格.com にも修理業者のサイトにも書いてあったがHDDを載せ替えるだけでは動かないらしい。基盤のBIOSチップにHDDの個体番号が書き込まれているので、元のBIOSチップを新しい基盤に載せ替える必要があるとのことだ。このモデルがSATA接続でなくヘンテコなUSB接続が採用しているのはコストカットのためだろう。コストカットをするならわざわざこんな余計な制御は入れないでほしい。
そして届いた基盤にHDDを取り付けてPCに繋いだところ、やはり認識しなかった。基盤に電気が通ったのはランプの点灯で確認できたが、HDDのモーター音はしなかった。通電はするしHDDは回転すると考えていたので意外だった。BIOSがHDDの通電まで制御しているのか?あるいはHDDも壊れてしまっているのか?
チップの移植は半田で行う。自分ではできないので業者を探す。半田って日本語として変な言葉だしもしかして外来語?英語でも通じる?なんて調べていたら数時間が経過していた。半田の語源はよくわからず英語ではsolder/ soldering という。
以前ラップトップPCのファン交換をしてもらった修理店に連絡した。彼らにその伎倆があるかはわからなかったが、いちど使った客にふっかけてはこないだろうし、できないのであれば知り合いの業者を紹介してくれると考えたのだ。
チャットで問い合わせると3,000円でやってくれると返事が来たので、修理店のある雑居ビルに向かった。修理内容を指示し3,000円でやるっていったよね、と念押しをした。チップのサイズは想像したよりも断然小さく、3,000円でやってくれる作業には思えなかったのだ。8,000円くらいなら仕方ないか、と受付待ちの気分で待っていたら、終わったよーと声をかけられた。わずか5分だった。5分しか経ってないよ、まじで?と聞くと、大味な顔をした店主は、彼はまじでプロフェショナルだからな、と技術者の肩を叩いた。料金は3,000円だった。5分で3,000円とはいい商売だなと思った。
家に帰りHDDを基盤に載せてPCに繋いだ。HDDがモーター音を上げた。そして画面に懐かしい表示が復活した。