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milky way

Chapter 4 星空の下(p18〜p21)

p18

その時間がくるまで僕たちは 仮眠を取ることにした。

目的の池までは かなり森の奥まで行かないといけないらしく、それなりの準備が必要だった。

今は心地よい夜風だが、明け方にはきっと冷え込むだろうと、サトさんが ブランケトを僕たちに用意してくれた。

チョコレート
コーヒー
サンドイッチ

まるでピクニックだった。
りさが用意した。
仮眠を取った時確かに眠ったがその間は夢を見なかった。

『さあ そろそろ 出かけようか ちょっと遠いからね、覚悟はいいかい?』

そう言ってサトさんは、とても住職に見えない格好で現れた。

かきあげた髪はばっちりセットして黒のカットソーにヴィンテージっぽいジーンズ、その上にモッズコート、靴はエンジニアブーツ。

『何が起きるか僕もわからないし 何も起きないかもしれない、
でも この日は前から決められてたみたいだからね。君達がここに来てあそこに行くってことが、運命なんだろうから確かめないとね。』

僕たちは、小刻みにうなづいて それぞれで何かを悟るように しっかりとサトさんを見つめていた。

今から起きるであろうことに、心ときめいて武者震いだったのかも知れない。

駅からお寺まで行く途中、道が二つに別れて道が二つに別れていたところまで行くと、もうひとつの方にサトさんは足元を懐中電灯で 照らしながら進んでいった。

こっちに行けば池があるんだ。

僕は、どっちに行っても結局僕の運命というのを感じてしまう日だったんだと 思った。

きっと一人で行ってもそこで何かが起こっていたと思うくらい、身体がシビレてきて頭が冴え渡ってきたから。

ふと 上を見た。

『うわあ、何だ?あれ。』
『きゃあ、綺麗。はじめて見た。』

思わず二人で肩を
つかみ合ってしまった。

頭の上には 天空を横ぎるように無数の星が 流れていた。
まるでファッションショーでエントリーされた順番のように次々と 流れていった。

『今日は、水瓶座流星群がある日だよ。
それも 今日のタイミングになったんだから もうこれは あるね。
必ずあるね。』

サトさんは ほんと住職らしからぬ 目つきをして 興味津々な顔で笑っていた。

僕たち二人は 歩きながら どちらからともなく手を繋いでいた。

風がほっぺを優しく撫でていた。
柑橘系の香が心地好かった。

p19

僕たちはずっと上を見上げながら歩いて行った。

森といっても 誰かがきちんと道を整備していて 歩きやすい小道を作っているので 飛び交う星のショーを 上を向いて眺めながら歩くことができた。

時々りさは、ピタッと止まって飛び上がったり 流れる星を数えようと 指さしてみたり
なにもないのにつまづいて転びそうになったり。
そのたびに 僕の繋いだ手を引っ張っていた。

離してもちゃんと
元に戻る。

ほんとお母さんとこどもが手を繋いでいるみたいだた。

そんな彼女を見ていたら、胸の奥がザワザワしてきて暖かい気持ちになってきた。
ついつい笑ってしまう。

ほんと子猫のようによく動き、なついてくる女の子だ。

満天の星明かりのなかで、彼女の大きな茶色の瞳は星たちのレビューを映してキラキラしていた。

愛おしかった。

『さあ あと半分 ちょっと 休もうか。』

サトさんは 大きな鞄から ブランケットをだして草の上に敷くと 寝っころがった。

僕たちも ブランケットをだして 靴を脱いで寝っころがった。

こうして見たほうが星の形や流れていく様がよくわかった。

水瓶座流星群は、今年あと一回 流星群が降るらしい。

『もう一度三人で みれたらいいね。』とりさが言って コーヒーをつぎだした。

疲れたからだにコーヒーの香は、アロマのように優しく ゆったりとした気持ちになっていった。

だんだん夜が、深くなりはじめて星が鮮明になり、天の川らしき星の塊たちがハッキリしてきた。

夜風も少しずつ 冷たく感じてきた。

暖かいコーヒーがからだじゅうをけ巡って一気に染み込んでいくようだった。

りさちゃんに感謝だね。こんな最高なコーヒーを飲んだのは初めてだよ。』

『そうでしょ。持ってきて 正解でしょ。あ、サンドイッチもあるよ。 』

コロコロと笑いながらりさは、次々に並べ出した。
フリーマーケットをひらくように持ってきた物で、座った自分の周りを囲んでいた。

からだは疲れていたけど、気持ちは、はずんでいて早く行きたいような、この時間をまだ楽しみたいような、とにかくワクワクした気持ちだった。

ひと通り食べて話して笑うと、それぞれがブランケットを片付けだし 出発の準備をはじめた。

いよいよ 始まる。

いよいよ僕が、ほんとの僕になるんだ。そう思いながら僕は、
ハイカットのコンバースの靴紐をキュと結び直した。

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『さあ。早く。』
そう言って 靴を履くのにもたついてた僕の腕をりさは、引っ張り上げてきた。

そして そのまま 腕を掴んだかんじで歩きだした。

どれくらい歩いたんだろう。

上を見たら綺麗に星たちの重なりが見れたのたのに、木々に覆われて 所々開いた隙間からしか その瞬きは見れなくなってきた。

左右から 闇が覆いかぶさってくる。

昼間は太陽の光りで、きっとまぶしいくらいの緑なんだろうが、今は怖ささえ感じる。

サトさんの照らす懐中電灯だけじゃ心細くて、僕もりさも 左右前後をサーチライトのように照らしながら歩いた。

『ほう これは すごい。』

急に 目の前の視界が広がって、スパンコールのカーテンのような空と、それを映しだしていたが時々ゆらゆらとカタチが変わる水面が見えた。

スパンコールの帯は、池のずっと向こう側からこちら側まで幅広く映しだされていて、着物のを作る反物のようだった。

『着いたんだ。』

着いて欲しくなかった。でも ほんとのことは知りたい。
複雑な気持ちだった。

『ねえ、ここで待つのね。なんだか怖い。何が見えるんだろう?』

りさも僕と同じく知りたいような怖いようなそんな気持ちだったのか?

いや、りさは僕よりもずいぶん前からあの寺にたどり着いて、この池のことを聞き、待ちに待ったんだから、絶対知りたいにちがいない。

僕をつかむ手がギュと力強くなってきた。その時そう思い直した。

どれくらい待てばいいんだろう。

ブランケットをリュックから取り出し頭から被った僕はそのなかに彼女も入れて寒さをしのぐために肩を寄せ合った。

もうずいぶん前からそんなことをしている二人みたいに、恥ずかしさもためらいもなく 自然にそうする自分に僕は驚いていた。

そう、自然にそうしていた。

あとは待つだけ。
僕のホントに会うために ジンジンとからだがしてきた。

気温が下がってきたせいか、この池のそばにいるからか、とにかくジンジンとしてきた。

怖さはもうなくなっていた。
覚悟を決めたから。


#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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