Coffee story エピソード2 【ローズヒップ】
【ストロベリーフィールズフォーエバー】③
爽やかな香りとちょっと酸味のあるローズヒップは、今でこそ好きだが、若い頃はあまり好きではなかった。名前とそのピンクの色でなんとなく頼んだのだ。
ただこの店で出されるカップがWEDGWOODのワイルドストロベリーで初めて頼んで出てきた時に、彼が「これイギリスのヤツでしょ?」と言ったので男の人なのにカップの銘柄とか知ってるって驚いた。
そして、やっぱりイギリス製というのに敏感なんだろうかと思ったことが頼み続ける理由だった。
はじめは、このカップが好きなんだろうと思っていたが、頼むたびにこのカップを見つめていたからある日聞いてみた。
「ねえ。このカップ好きなの?」
彼はしばらく黙っていたが、遠くを見つめてボソッとつぶやいた。
「母がね。母のお気に入りだったんだ。ワイルドストロベリー。」
「へー。そうなんだ。」
「どうもね。父からのプレゼントだったらしい。というより一緒にいた時に二人でお揃いで使っていたらしいんだ。ほらイギリス人って話たろ。やっぱティータイムとか楽しんでやってたらしいんだ。
楽しかった二人の思い出だったんじゃないかな。ワイルドストロベリーのカップは。
僕もまだ母といた小さい頃これにミルク入れてくれて母と並んでティータイムみたいなのやったことがあるんだ。だからねえ、つい…。」
そう言って、またバリアの中に入っていった。
今、このカップを手にしてゆっくりと光で眩しい昼下がりを楽しんでいる。いつか彼とお揃いのカップでティータイムを過ごす姿を思い描きながら流れてくるビートルズの曲に浸っている。
『ストロベリーフィールズフォーエバー』が流れている時に彼が、あのグレーの瞳を細めながら入ってくるのを祈りながら。
そして、ずっとこのローズヒップを頼み続けるだろう。
完
【ローズヒップ】
WEDGWOOD ワイルドストロベリー