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silver story # 55

結局、お母様が光一さんと話しユキさんは、電話に出なかった。
帰りの車の中で前の席の二人は優しいオーラに包まれながら始終微笑み合っていた。

お母様のうつむいた横顔が、しあわせそうで後ろの席の私は、ずーっと見つめていた。見ていてこちらまで口角が自然と上がっていき、ミラーに映るユキさんの微笑んだ眼差しを見てこちらもまた、しあわせな気分になっていった。

電話して良かった。
ここにバリに来て良かった。
今、心からそう思う。

大使館を出て、あの目玉の門の下を通る時、ぐーっと体を掴まれる感じがしたがお母様にも告げず自分の中で処理をした。
おそらく使命を果たしたシルシか何かと勝手に感じてそこを後にした。

帰りの道中は、とにかく楽しく、使命感や緊張感から解き放たれた開放感で、よく見ていなかった街並みのいろいろを車の中からキョロキョロ見てしまった。
やはりバリは、不思議な空気の場所があちらこちらにある。

都会の要素と古くからの信仰が現れた建物が同じ場所にあったりしてなんとも言えない景色だった。
海外から日本に来る外国人も同じように日本を感じているのかもしれないと思った。
日本も立ち並ぶ摩天楼があるかと思えば〇〇の跡地などという祠があったりするから同じようなものなのかとおかしくなった。

ミラー越しに見えたのだろう。ユキさんが声をかけてきた。

「サヤ。ナニカ オカシイデスカ?」

「いや、光一さんのびっくりした顔が浮かんできてオカシくなりました。本当に驚いたと思いますよ。」

「そうですね。行方が分からなくなっていた沙耶からの電話だったし、それよりなにより何十年も前の私が電話に出て話したのだから光一は本当に驚いたでしょうね。今頃パニックでしょうね。」

お母様がそう言って笑い出し、つられて私もユキさんも笑い出した。三人の笑い声と昼の陽射しも入り込み車の中は、眩しいくらいのエネルギーに溢れていた。

思いっきり強のエヤコンが効かないほど暑くなりあーやっぱり背中にも汗が流れていた。
ここはバリなんだと肌で再確認してしまった。

大役を成し遂げたのかなと深いため息をつきながらシートにどっぷり寄りかかりながら流れていく窓の外を眺めた。

#小説 #バリの話 #あるカメラマンの話

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