Silver Story #66

ユキさんにコーヒーを渡し、奥にあるソファに座りコーヒーを飲みながらちょっと前まで私の作品が飾ってあった場所をゆっくり見つめてその残像を思い出していた。 飾ったままでバリに行ってしまったから、何かをし忘れているような中途半端なような気がしてきた。 「音の見える風景」 それがテーマだった。バリのケチャを撮ってそこに加えて完成しようと思っていた。ほんの数日で戻る予定だが、こんなに長く留守にしてしまったのでギャラリーのテーマが変わり私の作品が外されてしまったのは仕方がないが、やはりやり残した感があるのは否めない。 今このカメラの中にあるあの場面をパネルにして飾れば本当に完成だったのにと思うとちょっと悔しい。 ま、何事もなくすんなり日本に帰っていたらユキさんや、アリサちゃんとこうしてここにいる事もなく、ましてお母様と光一さんのことを知る事も、再び結び付ける事も出来なかったわけだから、結果オーライと思うことにしよう。 いや、そうじゃないな！ 全ては、バリの神様の導きなのだ。全ては必然的なものだったのだ。 カメラの中の写真を送りながら見ていたらあのオレンジの目玉が現れたのだ。 消えてなかった。 あの夢よのうな出来事は、ちゃんとカメラに収まっていた。 その目玉は、まるでそこにあるようにギラギラとしていてどうかしたら少し動いてもこっちを向いているのうに動いている感じがする。うまく言えないが、そう、3Dのようで吸い込まれそうだ。 見ていると息苦しくなる。 このまま見ていてはダメだと思い次の写真へ進めようとボタンを押した、次の瞬間！ 目の前が真っ暗になった。 とても広い空間にいるような気配がしてきた。ユキさんは？ 「ユキさん？どこに居ますか？」 声に出そうとしたが喉が詰まって出せなかった。一体何がどうなってるんだ？ 真っ暗な時間はどれくらいあったのか、１秒なのか10分なのか、３０分なのか時間の感覚さえ無くなっていた。 何かしらの気配⁈私の部屋の方を見るとそこに居るはずのない人が立っていた。 お母様！なんで？ 白い衣のようなモノをまとったお母様が居た。 お母様、いやバリのあの部屋で見せてもらった写真の若い頃のお母様だった。 ゆらゆらと揺らめくようにゆっくり降りてきて 私の目の前までやってきた。 これは幻なの⁈ 「アリーシャ！！」 光一さんの声だった。 それを合図に辺り一面に星空が広がっていた。 バリで見せてもらったあの写真の星空。 二人が愛を誓ったというあの星空が。 #小説 #バリの話 #あるカメラマンの話