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milky way

final chapter ハジマリ

p28

どれくらい 僕らは抱き合って泣いたのだろう。サトさんは、いつの間にかいびきをかいて寝ていた。
リズミカルにいびきが聞こえてきて、思わず吹き出してしまった。
それきっかけで りさも笑い出した。
まったく サトさんは、何度もいうけど ホントにお坊さんなんだろうか?  

でもその格好と行動に似合わず彼から発せられるコトバには、温かみがあり 僕は何度も 救われた。  

昨日偶然来たこの寺で 出会った人なのに ほんと 随分前から知っている感じがしてしょうがなかった。
きっとあの人の思いや遺伝子が、僕のなかにあり その遺伝子の記憶なのかもしれない。

りさも初めて会った僕に凄く馴染んでいたし、繋いだ手、触れた肩、くっついた腕、そして抱き合った感触 とても居心地がよく、とてもしっくりしていた。

遠い昔、愛し合った二人の遺伝子の記憶なんだろうか?  

僕はりさの頬を撫でた。  

りさは僕のその手を両手で迎えいれて、ゆっくりと上に手を重ねていた。

「なんか懐かしい気がする。あなたのこの手の感触。やっぱり昔むかし愛した人の手だからなのかなあ?
私じゃないのにね。笑っちゃうね。」
そう言ってすーっと僕の唇に軽くキスしてくれた。  

りさの唇はとても柔らかで優しかった。  

新しくなった僕にキスでスイッチを押してくれた。  

自分が何者かわかった今、今までの空虚さは、なくなりなにかしら奮い立つ思いが生まれてくる。  

そんな気持ちになった。  

ここに来てよかった。
家を出てきた時はどんなことが自分に起きるんだろう あるいは何も変わらないんじゃないかなと、思っていたけどまさか こんな結果になるとは。  

1日でこんなに変わるとは、運命ってあるんだなあ。  

いや、僕は自分で切り開いたんだ。  

そう胸をはって 言える。  

サトさんはのびをして やっと目覚めた。  

「お前らどうするんだ? これから 家に帰るんだろ?」  

「私は帰るわ。これからまだやりたいことを始めるためにね。あなたはどうするの?」  

僕は何も考えていなかった 。
家には連絡するつもりだけどまだ帰りたくない。  

「サトさん、しばらくここにいていいですか?」  

「俺はかまわんよ。ただお袋さんには連絡つけろよ。」  

「はい。連絡しますよ。母にここにしばらくいること 荷物も送ってもらいたいから。」  

とりあえず しばらく僕自身が、僕になるためにここにいて気持ちを固めよう。  

あの梅の木を見ていたら そうすることが一番なんだと 思った 。

僕を固める。
もう、胸の穴はふさがっている。

心が満たされている。
充実感? 満足感? 達成感? いやこの気持ちを表す言葉を頭のなかで探したが、どれもあてはまらない。
うすらぼんやりが ハッキリした。  

それでいいのかな?
今は。  

とりあえずこれからの事が決まったからか、寝てないこともあってか、いきなり睡魔に襲われた。  

意識が遠退いて行くような心地よい、脳波のいざなう夢の中に落ちていくのに、そう時間はかからなかった。  



p29

夢の中にいた。

眩しい光が目に痛かった。
光の方を目を細めてみつめていた。
二つの人型が見えてきた。  

目を細めてみると、ぼんやりその顔が見えてきた。やはりあの人たちだ。
二人は。相変わらずしっかりと手を繋いでいた。  

ただこないだ見たのと違うのは、りさ似の彼女が嬉しそうに下を向いて 『僕』に寄り添っていた。  

その顔はしあわせそうだった。  

光がよりいっそう強くなり 二人の姿がなくなりそうになっていた。  

『これでいいんですか?』  

思わず僕は叫んでいた。たぶん声になってなく 意識の中にそう叫んでいたと思う。  

一瞬 つながった。  

僕のおじいちゃん。  

にっこりこっちを見てくれたような気がした。  

光が強くなり、もうまっ白。何もない。  

白い世界になった。  

「ねぇ 大丈夫?」

体を揺さぶられて 目が覚めた。
りさの顔が上から被さってきていた。  

「あ、うん。あの人たちに会ったよ。消えちゃった。」  

「そうなんだ。結局私は、何も見れなかった。でもあなたに出会った。それがすべてなのかもしれない。」  

そういってりさは軽くキスしてきた。  

彼女の頬を触って思った。  

現実なんだ。これが答なんだ。
これからどうなるかわからない。  

彼女と一生生きるのか、そうじゃないのか。
でも今は、一緒にいたい。  

それが今の気持ち。
先のことなんか誰にもわからない 。
自分たち次第でもあるけれど、とりあえず今を感じていればいい。  

僕はりさの顔を引き寄せて、その美しい琥珀色の瞳に キスをした。  

ハジマリのスイッチを押した。



END  

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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