Coffee story エピソード4 【ロイヤルミルクティー】
【プリンス】
職場の近くにあるショッピングモールの中にある喫茶店が、僕の憩いの場所だ。憩いというか僕が僕に戻れる場所と言った方が良いかもしれない。
『カフェRe-Q 』
いつもビートルズが流れていてガラス張りの店内は光に溢れている。入り込む陽射しでシルバーのように白い店内は、色塗れになった僕をその光で元の色に戻してくれる。
僕はとにかく毎日色々な色に染められている。汚染されている。
好きで選んだ仕事なのではないから初めのうちはかなりの嫌悪感でそこにいるだけで1日何回も吐き気に襲われていた。
この場所を見つけてやっと職場が、我慢できるようになったのは、ごく最近の事だった。
僕の家は、代々医者をやっていて僕も当然医者になるように小さな頃から親に扱われてきたが、あまりにも人間の汚い部分を見たり触れたりする実習に耐えきれず、医者になることをやめてしまった。
親からは、かなり罵倒されたが、吐きまくる医者になんて誰も診て欲しくないだろうし、生理的に無理なものは無理なんだとわかってもらうのにかなり時間がかかった。
それならば、他に病院に携わる仕事をと言われ仕方なく放射線技師という、遠くから人の骨を見ればいいという仕事に就いたのだった。
いずれ実家の病院に戻されて兄の助けをさせられるんだろうが、別に逃げる理由もないので成り行きに任せることにしている。
ショッピングモールの近くにあるかなりでかい医療センターに勤めていて、夜勤はないのだが、遅番と早番が不規則で未だに体内リズムがしっかりしないのが悩みだった。
今日は早番で、朝の7時から15時までだったので、このカフェに来てお気に入りのホットサンドをゆっくり食べることにした。
その勤務時間には大抵ここに来て、大好きなロイヤルミルクティーと一緒に食べながら、店に来る普通の人を観察している。
僕は、人間の骨をいつも見ているが人間の中にある無機質なモノには、何も感じないので外見から色々妄想するのが好きだ。
病院に来る患者は何かしらの病を持っているからその人や家族は、イヤなオーラを出している。そんな人たちと接していると、こっちまでそのオーラがまとわりついてくるから仕事終わりには、ありとあらゆる色が僕の体にくっ付いている。
人に話したことはないし、わかってもらえないから話そうとも思わない。
そんな中、体に着いた変なものを消してくれるのがこの店に溢れている光だった。
この店を知る前は、汚染されたまま家に帰っていたのでかなり辛い毎日だったが、ふとしたキッカケでこの店に入った時に、体からそれらがスーっと消えていったからびっくりした。
ココロもカラダも軽くなる。
まさにそれだった。しかも、ランチがおいしいし安い!
昼をかなり過ぎてもランチとなっているから笑ったけど遅めのランチをとる僕にぴったりだったので常連さんになりつつある。
曇りの日や雨の日にも来るのだが、陽射しが入らないのに光に溢れているのには驚いた。
どうしてなのか初め分からなかったが、何度か天気の悪い日に訪れた時にそれが判明した。
どうも店員の彼女から放たれる光のようなモノで店内がシルバーになっていたのだ。彼女の凄いオーラが店内を明るく輝かせていたのだ。
彼女は、気づいているのだろうか?自分がそんなふうに輝いているなんて。
それに、彼女を見ていると不思議な場面が浮かんでくる。彼女の頭の中にあるモノなのかどうかはよくわからないが、いろいろな人の生活の様がまるで漫画の吹き出しのようにポン、ポンと彼女の周りに浮かんでくる。
もしかしたら彼女は、いろいろな人の人生を透視しているのかもしれない。ここに来る客の人生を見ているのかもしれない。
きっとドラマを見ているみたいに来る客の後ろにあるモノを感じているのかもしれない。
僕のようにここに来れば元気になるとか、ホッとするとか感じている人がきっといるはずだ。 すでに際立って見える常連さんが何人かいる。彼女の態度でも汲み取れるが数ヶ月も通っているとわかってきた。
そうだ!彼女の目線でここの客の話を書いてみよう。
『カフェRe-Q 』にやって来る普通の人たちの話。
こんな始まり方は、どうだろうか?
通りに面したそこは、上から下まで大きなガラスで作られているので午前中は、キラキラとしていて眩しいくらいだ。わたしが働いている喫茶店で、名前は『カフェRe-Q』
題名は『Coffee story』
僕は飲まないが、ここのコーヒーは、かなり美味しいらしい。
いつまで続くかは、わからないけどいくつかは、すぐに話が出来上がると思う。
それくらい個性的な常連さんがいるのだ。
ここ『カフェRe-Q 』には。
僕を癒してくれる
シルバーに光る
ここ『カフェRe-Q 』の話。
手馴れた様子で淡々と作業をこなしている彼女。
今日も彼女は、シルバーの光を振りまいてみんなを癒してくれている。
そんな彼女を見ながら僕は、パソコンを開いて初めの一文字を打ち始めていた。
『Coffee story』
完