Street story
Chapter 3 永遠
あれから しばらく街に出なかった。
彼女がどうなったか知る由もなかった。
モノクロの生活に戻り、やっかいな心も普通を取り戻したらしく、いや、無理からそう思い込もうとしてたのだろう。
また溜まったものを吐き出したい衝動にかられて、街へでた。
街は、モノクロ。
空は重いグレー。
ところどころ黒い雲が固まっていて、きれいなグラデーションをなしている。
学校帰りの学生 会社帰りのリーマン、OL、
久しぶりのこの場所。
以前と変わらない自分のはずなのにやはりまだ どこかで彼女を探してた。
面影を振り払おうとギターを構えて歌った。
忘れるために歌うのにその曲は、あの日の俺だった。
歌わなければいいのに、彼女といっしょに葬り去ればいいのに、なぜか今までのなかで、一番気にいって一番いいできの曲だった。
いつもより客の反応も違う。
奴らもこの曲には、すごく反応してくる。
肌でわかった。あの人を思えば思うほど、歌に気持ちが入るからなのか?
いままでにない俺のスタンスだからなのか?
おかしなものだ。
今までにない俺。
ほんとは 吐き出したくない心。
吐き出すのじゃなく伝えたい心。
そんな曲が受け入れられるって、一番聞いて欲しい人は、ここにはいなのに。
歌い終わると、現実がタバコの煙のようにまとわりついてくる。
目をしかめたくなる格好悪い今の俺。
情けないほど彼女に浸食されてる。
出会って触れ合った時間は、まばたきするくらいなのに。
運命?そんな陳腐なことばで片付けたくないけど、そうなのかもしれない。
一生に一度 巡り会うべく出会ったのかもしれない。それくらい彼女を求めてる俺の心。
彼女の面影をかき消そうと、頭を髪の毛をかきむしっていたらその手に冷たい粒があたった。
とうとう 降ってきやがった。
空はもう黒い大きな塊だらけになっていた。
立ち止まっていた奴らも、鞄を頭に載せて雨をよけながら足早に立ち去ろうとしていた。
俺も片付けはじめて、しゃがみこんでいた。
一瞬雨粒が止まった。
彼女か?ゆっくり顔をあげると、見知らぬ男が傘を俺に 向けていた。
『やっといましたね。』
その男は、ゆっくりと落ち着いた話し方をする 初老の紳士だった。
そう 紳士というのがピッタリの男だった。
その話し方にわけもなく体の中の血が逆流していくのを感じていた 。
『なに? 俺のこと 知ってるんですか?』
ギターを片付けながら聞いてみた。その紳士は、静かに微笑んだ。
だがその目はどこか寂しそうに見えた。
嫌な予感がした。
その紳士はやはり静かに語り出した。
『これをあなたに渡すように言われました。
2ヶ月前彼女は、また自分の作品を増やすために 写真を撮りにバリ島に行きました。
どうも、ケチャをやっているところを撮りたかったようで、 ほら、音楽と人がいまのコンセプトだからね。
出発前に珍しく私に挨拶に来て、それを託していったんだよ。』
そういって茶色の包みを渡された。
『それキミでしょ?
彼女すごく気に入ってて、ただ今回は、
「ほんとは行きたくないかも。」と珍しいセリフが彼女からでたから驚いたんだよ。
キミに会って直接渡してから行きたかったみたいだね。』
目を伏せてしばらく紳士は黙っていた。
深くため息を一つつくと、また静かに語り出した。
『行って数日後、あちらの日本大使館を通して 連絡があって、彼女が行方不明になったと言うんだ。
まだ見つかってないんだよ。
彼女からも連絡がなく、連絡がつくのを毎日信じて待っているんだよ。
そしてそのこととそれを渡したくて毎日のようにここに来たんだけど、なかなか現れなかったね キミ。』
その後の言葉は耳なりで聞こえなかった。
ふーっと目の前に銀色に包まれた彼女の寝顔が白昼夢のように現れた。
夢であってほしい。
雨は静かに俺を濡らしていった。
流れる涙を隠すのにちょうどよかった。
雨はその勢いを増してきた。大事な相棒は、なんとか片付けるのに間に合ったが、頭からは
いくつもの水の束がだらだらとぶら下がっていた。
『さあ ギャラリーに行きましょう。』
紳士に促されて立ち上がろうとしたが、足に力が入らずフラフラとよろけてしまった。
紳士に肩を借りて立ちながら、『これじゃあ どちらが年寄りかわからないなあ。』
心の中で吐き捨てるようにつぶやいた。
その場からギャラリーに向かった。
『ギャラリー SOLEIL』
あの日に連れ戻されていく感じがして、目の前がまた銀色で眩しくて、目を開けていられないくらいだった。
彼は、奥からコーヒーとタオルを持ってきてくれた。
ゆっくりとコーヒーを流し込み やっと目を開けて周りを見渡すことができた。
もうあの空間はなかった。
やはりあれは、夢だったのか?
彼女の存在も実は幻ですべては、白昼夢だったかのような静けさだ。
いろんなアートが飾ってあるが、色が見えない。
俺には白黒にしか見えない。
もらった包みを開けてみた。
あの夕日のオレンジ色に包まれた俺のシルエットが 切り取られていた。
『沙耶からそれをあなたにと預かった時、彼女は、とても愛おしそうにそのパネルを触っていましたよ。
彼女はきっと帰ってきますよ。私はそんな気がします。』
気休めでも信じたかった。
どんなふうに家に戻ったかは覚えてない。
家について座り込んで、もう一度 パネルを出して見た。
彼女のエネルギーを感じた。
銀色、オレンジ、ゴールド、光!そう、光の中に俺がいる。
彼女にいだかれ、包まれた俺がいる。
静かに目を閉じると見えてきた。
銀色の道、光に向かって歩いて行く、彼女と俺。
ギターを出して歌った。
『……二人歩く道のうしろには銀色の音楽が鳴りやまない
星も月も踊り出す
銀色の音楽に 踊り出す
銀色の音楽に狂ってく』
沙耶は俺の側にいる。
俺の歌の中でいつまでも輝いている。
これからもずっと。
永遠に ずっと。
E N D
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