Girlfriend 〜chapter3
どれくらい 走っていたんだろう。
迫ってくる塊もなくなり、道沿いに ぽつぽつと人口的な明かりが燈された 真っすぐな道を走っていた。
彼女の心地好い重みをまだ感じていた。
体中の血液がそこにあつまるようにそこだけが熱くなっていくようだった。
何も言えなかった。
彼女も何も言わなかった。
俺は道から外れ 少しだけ広くなった場所に車を滑りこませた。
目の前には 海が広がっていた。
まだその色は黒く、月明かりに光る波の輝きと繰り返すリズムが俺の気持ちに冷静さを取り戻す方向にいざなってくれていた。
穏やかだった。
彼女の頬を右手でさわってみた。
初めてだった。
その柔らかさを一生忘れないだろう。
Radioからは、
エルビス・コステロの『SMILE』がながれていた。
彼女の頭がそのままになるようにゆっくりと腕を彼女の背中、背中から肩にまわした。
ぐっと引き寄せ 抱きしめ その髪を頬を唇を俺だけのものにしたかった。
彼女は、俺に身を委ねているようだった。
外は、うっすらと色を取り戻してきていた。
星も帰って行くように空と同化してきていた。
夜明け。
はじまりなのか終わりなのかまだ見えないのに確実に夜は、明けていく。
目の前の海が その輪郭を表してきた。
空と海の縫い目が見えてきた。
紫色のビロードのようになめらかな空が段々と光りを伴ってきた。
どれくらい肩を抱いていたんだろう。
彼女の移り香が付くくらいの時間だった。
それなのに俺は、彼女の肩をぽんと叩くと、回した手を彼女からひき戻しハンドルを握り直した。
「さあ、夜が明けた。帰ろう。」
できなかった。
抱き寄せることはできなかった。
自分じゃ 彼女をしあわせにできる自信がなかったのだ。 引き寄せればすべてが変わる。分かっていただけに、逃げてしまった自分が、糞みたいに思えた。
彼女は 一瞬、俺の目をしっかりとその大きな瞳で見つめた。
そして、ふっと微笑むと真っすぐに前を見直した。
空は、シャンパンゴールドの光りに包まれていった。
車を出すと彼女は、会社のこと、友達のこと、あいつのことを別人のように話し続けだした。気まずい俺を気遣かっているようだった。
彼女を親友の家まで 送り届けると彼女は、ニッコリと微笑んで車から降りていった。
「ありがとね。」
彼女はいつものガラスのように澄んだ瞳をして俺の心を見極めたように笑った。
去っていく彼女の後ろ姿を バックミラー越しに見つめていた。
それしかできなかった。
「何やってんだろう。」何回この言葉をつぶやいたんだろう。
ふーっと深いため息をつくとタバコに火を付け いつものザラザラした気体を肺に送り込んだ。 自分を落ち着かせるようにゆっくりと煙りを細く吐き出していった。
そうして俺は、また現実を生きる自分のテリトリーに戻っていった。
空にはもう星もなく、ただ白い月の雫が、格好悪そうに張り付けてあった。
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