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Silver Story #58

このままバリの料理を食べ続ければ私は完全にバリの住人になるかもしれない。もし、光一さんの事がなかったら、こっちでカメラの仕事を探してこっちで家を構えてずーっと住み着いたかもしれない。それくらい、この料理がカラダに合う。というよりこのお母様の料理が合うのかもしれない。
相変わらず二人は優しい笑顔でお互いを見ながら優しい声で話をしている。本当に仲のいい親子で羨ましい。こっちにいたら私も家族のようにしてもらえたかもしれない。きっとしあわせな日々を過ごすことになるだろう。


ゆっくりと歩くとだいぶ歩けるようになったのでそれも不思議だったが全てはバリなんだからと思うことにして残りの時間を楽しむことにした。

匂い立つ緑の木々や、むせ返るような暑さと湿った空気、飲み込まれそうな広くて深い空。
あの日お母様と見た山々の景色も一生忘れないが、今一人で見ているこの風景も一生懸命に頭に焼き付けて日本へ帰ることにしよう。

また、絶対にここに戻って来る。

そう心に誓いながらシャッターを押していた。 棚引く雲と遠く聳え立つバリの人々が敬い崇めたてる神の山アグン山がクッキリと見え、その時私は、「お前はよくぞ、やり遂げた。」と聞こえたような気がして思わずカメラから目を離し直接肉眼で山を捉えた。

深く息を吸って手を合わせ深くお辞儀をした。

「お導きありがとうございました。」

小さく呟いてお母様の待つ家に戻ることにした。日本に帰るために戻って行った。

#バリの話 #あるカメラマンの話 #小説

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