環七通りの魔女
『ふじみのババア』とは死なないババアのことなのかふじみ野市在住ババアのことなのか。そんな疑問がバイト中に頭を駆け巡った。ボーッとしながら考えていた。気づくと僕はバイトをクビになっていた。
最後の出勤を終え、自転車で環七通りを走っていると突然、青白い光に包まれた。前も後ろも視界に映る範囲全てが不穏な光で満ちていた。環七通りの魔女が出たんだ。噂はもちろん知っていた。だが実際にランプが点いているところを初めて見た。僕は魔女に会わないように、急いで自転車を漕いだ。
体がうまく動かなくなった。ダメだ。いた。魔女と聞いて連想される全てが詰まった親切なデザインだったのですぐにわかった。これが魔女じゃなかったらアリクイはアリを食わないなあと思っていると「アリクイはアリ以外も食べるんだよ」と言って魔女は夏の小学生男子に姿を変えた。「天はカブトムシの上にクワガタを作らず、ふっくりんこの下にゆめぴりかを作らず、と言えり」と学問のすすすすめの有名な一節にアレンジを加えたものを唱えた。
「まずいお寿司か」
確かにアリ以外だなあと思った。
「僕にジャンケンで勝ったらバイトの件店長に口利いておくよ」
夏の小学生男子になった魔女は言った。
負けられない戦いが環七通りにあった。
「さいしょはパー」
負けた。こんな単純な手に負けてしまった。
「僕の反則負けね」
魔女が言った。
こうして僕は今もバイトを続けられている。
優しい魔女だった。