「野菜炒めを作るぐらいの気力」

　野菜炒めを作るぐらいの気力で成り立つ恋がしたいのだ。
　付き合う前は何回デートをするだとか、先に抱いては駄目だとか、メッセージの頻度とか絵文字とか、どっちが優勢でどっちが劣勢だとか、そんな感じの複雑で色々と面倒な事情は全部どうでも良くて、ただ惹かれあって一緒にいることになった。

　それでいいんだ。それがいいんだ。
　シンプルな手順で出来上がる野菜炒めにも、作り手によってそれぞれの味や、使う野菜、肉に違いがある。
　それと同じように、一見とてもシンプルに見える流れで成立した恋だって、ちゃんとそれぞれ違いがあるはずだ。
　もういちいち考えさせられるような恋は御免なのだ。むしろそんなものを恋と呼ぶ気すら失せてきてしまった。

　面倒くさいな。
　だから野菜炒めを作るくらいの気力で成り立つ恋をしてみたい。

　でも、恋をしたくないとは言わない。言えない。
　面倒だとしても、複雑だとしても厄介だとしても、

　恋が無いよりは、ずっと良いだろう。