料理人を″料理に携わる人″と再定義する
1年半前、料理人を辞めた。
脱サラして始めた厨房での修行も、1年間でピリオドを打った。
きっかけは、コロナウィルスが本格的に蔓延し始めたタイミング。
2020年4月、sioでは毎日のようにシェフが #おうちでsio でレシピをアップし、みんなでバインミーや日替わり弁当を作っていた頃だ。
#トーバーイーツ と名づけ、自分たちで届けられる範囲でデリバリーも開始した。
実は、その頃。
僕は高熱が出て、現場を休むことになった。2〜3日すると微熱になったが、2ヶ月ほど37.5℃から下がらず、常にすこしだけフワフワしているような感覚があった。得体の知らない疫病のニュースが不安を駆り立てたが、PCR検査は陰性でどこも異常はなく、自然に平熱に戻っていった。
その間、体は動いたので僕はnoteを書いた。
料理をすることから離れて、いつの間にか発信することが自分の居場所になっていた。
この頃から、僕の仕事は“sioのイズムを届けること”になったのだと思う。
食のプラットフォーム構想への加速
コロナをきっかけに、sioはますますレストランではなくなり、“美味しい”をさまざまな形で提供するチームになった。
コロナを通して僕らは、料理を「直接」届けるのみではなく、「部分的に」「間接的に」届けるようになった。
まず「直接」届けていたのが、リアル店舗。
そのレストランでしか食べられない料理を、こだわりの空間やサービスとともに提供する。これが飲食店の価値である。
しかし、コロナでお客さまに料理を「直接」届けられなくなった。
そこで、「部分的に」届け始めたのが、テイクアウト。
お店が直接作るが、自宅でお客さまが食べるシチュエーションやタイミングはコントロールできない。
テイクアウト・デリバリーは、食事くらいは楽しみたいと思っている人のために。外食ができなくなり、唯一の楽しみがテイクアウトだった。
だから、シェフは、レストランを1本で体感できる「HEY!バインミー」、味のワンダーランド「チキントーバーライス」を作った。
そして、レストランが恋しいという声に応えて“自宅史上最高の食体験”を目指して、「sio贅沢弁当」を生み出した。
「間接的に」届け始めたのが、レシピ公開。#おうちでsio と名付けた。
お店の味を公開し、お客さまに作っていただく。コントロールできない分、どんなお客さまでも楽しめて、失敗しないように『やさしいレシピ』である必要がある。だって、慣れない自炊で困っている人がいるから。
こうして、はじめての本も出版された。
他にも「間接的な」届け方として、美味しい思考をオープンソースし始めた。
さらに、企業とのコラボも行い、自分たちの力だけでは届けられない人にも届けることができた。そして、ユーグレナさんとの取り組みも決まった。これからさらに、おいしいを「持続的に」届けることができるだろう。
幸せの分母の増やし方
おいしいの届け方が広がっていった理由はいたってシンプル。
料理は、人を幸せにするためのツール。
おいしいでたくさんの人を喜ばせたいという気持ちの一心だ。
だから、まず何よりも大前提として、おいしくなければいけない。ここが抜けると一巻の終わりだ。
無事においしい料理ができたら、アツアツのうちにお客さまの元へ。
“なぜおいしいか”をていねい、かつ、効果的に伝える。
お客さまが感動すれば、自然と口コミで広げてくれる。
あくまで一例ではあるが、こうやって広がっていく。「直接」以外にも届け方がある。
そして、僕はその届け方の部分を磨いていきたい。
料理人の中には、料理自体を考えられる人、作る人はたくさんいる。
しかし、届け方がどうしても二の次になる場合が多いように感じる。
おいしいものを作っても、届かなければ存在しないも同然だ。
去年の途中、シェフは何度もこの言葉を口にした。
伝える・広げるだけではなく、届けきることが重要だ。
そして、先日放送されたドキュメンタリー番組「バトンタッチ SDGsはじめてます」の中で、料理人についてシェフはこういった。
料理人は「料理をする人」ではなく、「料理に携わる人」。
料理人は、1年半前に辞めたはずだった。
でも、どうやら新しい「料理人」人生は、既にはじまっていたようで。
僕は、料理の届け方を考える人。
つまり、幸せの分母の増やし方を考える人である。
これからも僕は、ずっと料理人であり続ける。
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小杉湯の平松さんからはこんな嬉しいコメントをもらった。平松さん自身が擬人化した銭湯のような人で、これまでも何度も心がぽかぽかすることばをもらっている。
小杉湯さんとは #ととのうプリン のレクチャーに行ったり、バインミーを高円寺で販売してもらったり。銭湯と料理、提供するものは違えど、「文化を作る」という同じ想いでつながっている。ありがとうございます!
そして何より、3ヶ月間ともに何度も何度も密にやり取りしてくださったディレクターの中原さんに感謝を伝えたいです。ドキュメンタリーのプロフェッショナルとして、伝えるべきゴールにこだわり、素材にこだわり、チームにこだわり、最後まで「もうこれ以上ないのか?」と粘り、戦ってくださった。
鳥羽さんの熱量を、アツアツで提供できたのは中原さんのおかげです。
中原さんのように僕も、sioのイズムを、鳥羽イズムを新しい「料理人」として届けたいと思います。
僕にとって、目指すべき料理人というゴールがはっきり見えました。
あとは進むだけ。いや、進みます。
TVerで 11月6日(土) 17:05まで配信中です。
覚悟について考えさせられる45分間。仕事に行きながらでも、自宅に着いたあとにでも。
ぜひご覧いただけると嬉しいです。