ショートショート「睡眠妨害」

まただ。

また、そこにいる。

俺の仕事帰り

毎回、家に帰るとそこにいる。

ベッドにいる。

仕事帰りで疲れている日も、

飲み会で神経を使った日も、

休日、家で何もしていない日も、

ベッドにいる。

仕事帰りは特に早く寝たい。

でも、邪魔で寝られない。

普通に起こそうとしても起きない。

俺はソイツの事を

「眠れる森の美女」

ならぬ、

「眠れるベッドのブス」

と呼んでいる。

ずっと寝ている。

しかも、このブスは俺が知っている人物ではない。

つまり、不法侵入の寝ブスだ。

話しかけても起きない。

揺らしても起きない。

プロレスの技を仕掛けても起きない。

しぶといブスだ。

俺がこのブスを眠れるベッドのブスと呼んでいるのは、

俺がこのブスにキスをしないと起きないからだ。

毎回、嫌々、仕事帰りにブスとキスをしないと寝れないし、生きていけない。

俺のスケジュールに、この知らないブスが侵食してきている。

いつも、このブスにキスをすると、

目がパッチリ開いて

「やっほーい」

と言って玄関から出て行く。

迷惑過ぎる。

近隣住民にも。

あのブスと同棲してるなんて思われたらどうしよう。

それはまぁいい。

このキスは毎晩の事なので、

ナイトルーティンになってきたが、今晩は違った。

このブス、目の下にクマが出来ている。

ますますブスになっている。

それは気にしないようにして、顔を近づける。

すると、ブスは

「ん〜」

と言い、ダルそうに寝返りする。

顔を近づけるのも嫌なので、すぐに終わらせてほしいにも関わらず、このブスは寝返りをした。

腹が立ったので、スリーパー・スープレックスをこのブスに仕掛けたが、起きない。

早く済ませたいので、顔をガッチリ固定した。

顔だけ甲冑を着けてるみたいになっているのに、起きないブス。

呆れながら優しくキスをした。

すると、このブスはいつもよりテンション低めで、

「もっと寝かせろや」

と言って玄関から出て行った。




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