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【結婚生活キホンのキ】今夜、ハゲ薬を頂戴します

新潟はひどい雨が連日降り、己の中でくるしい戦いが続いていた。わたしはいつだって晴れが好き。

先日、その辺りを歩くご婦人と話し込むことになり、明らかに曇天なのに彼女は「今日は天気がいい」と言うのだった。郷に入っては郷に従うしかないので、晴れの女である福岡県民のわたしは「いや〜ほんとにスペシャルないい日」と合わせていった。

解散後、再び空を見上げると、灰色の空がはるか遠くまで続いていた。やはりおかしい。あの人、大丈夫なんだろうか。


夕方、夫のヒロシと合流し、スーパーで大きな唐揚げを買い込み簡単な野菜炒めを作ったあと食事をした。

口に入れる寸前に「おいしい」という男でよかった。それでいい。それがいい。美味しいかどうかなんて、数年先でいい。作ったことがスペシャルだろう。

数週間、鼻詰まりが激しいヒロシは、なんとなく雰囲気だけで「おいしい」と言っている。大嫌いなはずのピーマンとナスを滑り込ませているのに気づいていない。ナスを「イルカみたいな食感」と言っていたのにどうしてしまったのだろう。先ほど会った、曇天なのに天気がいいと断言していたご婦人の顔が浮かぶ。あの人を、本当の晴天の地に連れ去りたい。



結婚すると生活リズムがシンクロしていく。

淡々と風呂を済ませ、洗面台の奥に大量の「育毛剤」を見つけた。あ!エロ本見つけた気分♪と思ったものの、どれも開封されておらず、チッ一応聞いてみると、予防のために買ったが買ったことをすっかり忘れたまま放置しているという。

そしてヒロシは、趣味であるオンラインゲームをはじめた。ゲームをやる前に「ゲームやっていい?」と聞いてくる。そんなのいいに決まっている。はやくやってくれ。没頭しろ。その間に、最近抜け毛が気になっているわたしがハゲ薬をこっそり頂戴する。

風呂場の排水口に集合した、わたしの美しい毛の話をしている。シャンプーしてるのか、毛を抜いてるのか分からなくなっている。ストレスが原因というか、握力が人よりも強いのが原因なのか分からない。握力は40ある。力加減がわからず、むしっているのだとしたらアホみたいである。

つむじが2つもあるので、なんとなくハゲて見えるというのが小学校の頃からの悩みであった。それをごまかしながら生きてきたが、ここにきて抜け毛として、違う要素がプラス、いやマイナスになっている。まずい、ヒロシ許せ、この薬、あたしの頭皮から救わせる。

シュシュシュシュ。
揉み込むこと10分。

効くのか分からない液体を頭皮に揉み込む時間、こわいな。神頼み、ここでするのも申し訳ないし、とりあえず人力と科学の力でなんとかしよう。

洗面台の扉を閉め、やや不安な自分の顔を見つめた後、扉越しにゲームをするヒロシの「わ!やばい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」という奇声を聞こえた。

「こちらの頭皮が死にかけてるんだよ!」と言いたかった。いや生きる、生き返ってみせよう。

新婚生活、なるべくフサフサにして、排水口を見なくてすむようにしたい。

「今夜、あなたのハゲ薬を頂戴します」

怪盗モノの予告状の気分だ。

毛の進捗、ここのnoteで書けたら書いていく。毛の話ばかりになったら、それはそれでそういうことだ。よろしく。

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稲田 万里
思いっきり次の執筆をたのしみます