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葬式のラッキーセブン

親戚で、やさしくて、よくふざけていたおじいちゃん、「キヨさん」が亡くなったのは高2の頃だった。

いつも会いに行くと、上京した彼の孫が大量に家に残したHIPHOPの古着を着ていて、かなりギャップがある姿で出迎えてくれた。笑顔で話してくれているけど、彼の胸にはF◯CK!!!と書かれていて、なんとも言えない気分で帰るのが常であった。

そんな彼が急に体調を崩したという話を聞いた。
高校の重要な試験の前日の夜、電話が鳴った。英単語の記憶途中だった私は、完全に集中力が途切れてしまった。病院はどこもいっぱいで、受け入れてくれる所がないとのこと。キヨさんは顔色が悪くなり、話すことも出来なくなって、どんどん衰弱し、一晩であの世に行ってしまった。奥さんとも最期の挨拶はうまく出来ず、いなくなってしまった。

葬式当日。あまりに急で親戚一同、死んでしまった実感がない。
棺桶にはキヨさんが寝ていて、白装束を着ている。いつものHIPHOPの古着ではないから見慣れなくておかしさがある。

「キヨさん、白い服似合わないね。でも死んだらみんな着るんだね」
私は、キヨさんの奥さんに話しかけた。

「さすがに普段着着せるとまずいかなってね。うん、私も近いうちに着るんだよ」
「おばちゃんは長生きしないと」
「そう、ねー。一緒にいきたかったよ」

彼女は魂が抜けたようにキヨさんを見つめ続けていた。ずっと寄り添った夫がいなくなるなんて、今の私には考えられない。
葬式は順調に進み、最期に棺のお顔を見せる窓を閉めながら、「おつかれさまでした」と花束を乗せた棺に覆いかぶさり抱きしめた。

みんなこのシーンを見て、あ、本当に死んでしまったんだと理解が追いついて、鼻水をすする音が目立ちはじめた。おつかれさまでした、と言われる人生。いろんなことがあったんだろう。まだ気を張っているつもりだったがつられ泣きして、昨日覚えた英単語が抜け落ちていきそうだ。

火葬場に移動し、誰もがキヨさんとの思い出を話して、また泣いた。

そこには遅れてやってきたキヨさんの知り合いが、小さな子供を連れてきていた。るりちゃんという名前だ。その子はまだこれから人が焼かれるなんて理解できていないはずだ。その方が楽だよな、と羨ましくもなる。

キヨさんの奥さんは、壁にもたれて、元気がなかったので、背中をさすってあげた。

「焼きたくない」
彼女は小さな子どものように呟いた。
「うん、焼くんじゃなくて、なんか違う空間にワープするやつだから」
私も良い慰めの言葉が思いつかない。

るりちゃんは会場を走り回って、親に怒られている。

そうしているうちに私たちの方に、るりちゃんが走ってきて、こう言った。
「今からなにすんのー?」
「お別れだよ」
「あ、死んだってこと?」
「え、分かるの?」
「うん、何さい?」
「77」
「やった!ラッキーセブンや!」

そう言い放ち、またどこかに走っていった。
キヨさんの奥さんは呆気にとられ、そして吹き出した。私も笑って良いのかわからないけれど、今までの緊張感から解き放たれ一緒に笑った。

「ラッキーセブンなら仕方ないな」
「死んでもラッキーなら、元気でるね」

思いもしない言葉で、キヨさんとのお別れは悲しくなくなった。ありがとう、私もラッキーな数字を重ねて死にたいよ。

毎日、瓦版のように世の中で起きたかもしれない、いや起きてないかもしれない個人的大事件を軽く書き連ねていきます。世の中、苦しいニュースばかりで耐えられないので自分で書くことにしました(動物が産まれたニュースばかり希望)。完全見切り発車小説、としとこう。瓦版があった当時、2〜3文で売られていたようなので、今回から書いていく瓦版も100円にしたいです。これを最後まで読んで気に入ったら100円サポートしてください。記事のオススメボタンも押してもらえると飛んで喜びます(^^)やった〜。

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稲田 万里
思いっきり次の執筆をたのしみます