マナバーン2021カバレージアンケート全文
マナバーン2021で久々にアンケート返答という形でマジックのお仕事に関わらせていただきました。
我ながらアンケートという概念を理解していないひどい長文の返答となってしまい「さすがにこれは全文載らないだろうけど、一応多く書いて適当につまんでもらおう」という事でいったん全文を返答として送付しました。
当然「こんな長文のせられるわけないでしょ、わかってるでしょ?」といった旨の内容が丁寧な文章で返ってきたので、どこを使うかはお任せした上で将来的に全文をnoteで公開する許可をいただきました。
発売から一か月半くらいたちましたので、そろそろ全文を公開しようと思います。いまいち何言ってるかわからない内容が多いですが、興味ある一部の方の暇つぶしになれば幸いです。
Q1.どういうきっかけでカバレージを書くことになりましたか?
2001年ごろにウェブにマジックの記事を上げていたのですが、そのころに知り合った浅原晃さんがカバレージを取り仕切っていた森慶太さんに紹介してくれたらしく、突然携帯に「今度の日本選手権のカバレージやりませんか?」とだけメールが来ました。当時はマジックのプレイも全くやっておらず、プレイヤーとの交流もほとんどなかったので非常に不安でしたが、会場まで浅原さんの車で送ってもらう道中でどういう方針のカバレージにするかを話してそれで行ってみようという事になりました。当時の方針は今も変わってないのでラッキーですね。
Q2.マジック公式サイトでカバレージを書いている時期はいつですか?(だいたいでけっこうです)
2005年の日本選手権から、2010年の世界選手権までです。
Q3.カバレージを書く時、特に心がけていることは何ですか?
主に以下の3点を意識しています。
・スピード
カバレージは(特に僕がやっていた頃のマジックでは)ほぼリアルタイム更新だったので、とにかく書くのが遅いと戦力にならないというのが実情でした。当時は、いかに早くカバレージを上げるかを追求するために、辞書をメンテナンスしたり、ショートカットキーやツールの活用といった文章そのもの以外の部分でもスピードを追求するノウハウを蓄積していました(この辺の話はいつかまとめたいと思いつつ筆不精で書けてません)。
今のカバレージは当時ほどのスピードを要求されない環境だとは思うのですが、結局〆切は無限ではなく時間は有限ですので書くスピードが速い事自体は全体のクオリティアップに貢献していると今でも考えています。少なくとも、一文ごとにかかる時間が短くできればできるほど全体の構成にかけられる時間は増えるわけですから。
個人的には、試合終了後の10分後には最低限提出できるレベルでカバレージを完成させて、あとは〆切までにどれだけクオリティを上げるか考えられるようになるのが理想だと思っています。
・「その大会で起きた出来事」であるという事
カバレージは大会の記録ですが、それはゲームの内容だけを記録するものではないと僕は考えています。たとえ同時期の対戦で何度もみたマッチアップやプレイだとしても「その時、その場所で、その二人が対戦している意味」をどれだけ記録できるかを意識する事で「その大会でおこった出来事であるということ」を文章の中に封じ込めることができるのではないかと強く信じています。
例えば試合開始前や試合中の会話を書くだけでもただの無味乾燥な棋譜から「その二人でしか作れなかった対戦」として書くことができますし、例えば冒頭でちょっと天気の話を書くだけでもその会場にいた対戦していた以外の参加者にも当時の風景や自分の思い出を蘇らせる記事とする事ができるような気がしています。小手先のテクニックのようですが僕はそういう事を大事にしたいです(この辺の話はいつかまとめたいと思いつつ筆不精で書けてません)。
カバレージはリアルタイム性も大事だと思いますが、リアルタイム情報だけで言えば今は生配信もありますので、情報を取捨選択しつつ強調も構成も自由なテキストの強みを活かした記録とするためにも今後より重要になっていく気はしています。
・読んで面白いという事
カバレージは大会の記録であると同時に読み物でもあるので、読んで面白い記事になっているという事は何をおいても大事だと思っています。読みやすい文体であるという事はもちろんですが、構成や文章上の仕掛けをうまく使う事で「この記事を読んでよかったな」と読んだ後に思ってもらえたらうれしいなと考えて記事を書くように心がけています。
ただ、大前提として「目の前に試合がある(もしくはインタビューがある)」という事を忘れないようにはしたいです。記事の為にゲームがあるのではなく、ゲームの為に記事があるという意識をもって、目の前の試合の面白い部分をどうすればもっと面白い試合なんだと伝えられるかを考えるようにしています。マジックの試合の面白さは気づきが必要な場面も多いので。
例えば冒頭と締めを同じ一文にするカバレージを僕は良く書くのですが、これはゲームの内容を経て読むと同じ一文の意味が変わる事でゲームの面白さへの気づきになりつつ読んで面白かった感が増すかな?と考えて採用した手法です(この辺の話はいつかまとめたいと思いつつ筆不精で書けてません)。
それと、僕はカバレージで物語性を重視していると思われがちですが、それは誤解です。物語のために対戦があるわけではないので。上記の3点を達成するために僕にあったやり方が物語性をベースにするというやり方だっただけで目的ではなく手段でしかありません。色々な手段で面白いカバレージが世に溢れるほうが楽しい世界だと思うので多様性のあるカバレージになることをディレクターの時は意識しています。
とはいえ、僕はトーナメントプレイに真剣であるプレイヤーが大好きであり、本来無為に近い真剣なゲームプレイに人生を賭けた人たちが「あぁ、この記事を書いてもらえたなら真剣にやってきてよかった」と報われることに貢献したいというのが一番大事にしている事なので物語になってしまう傾向があるのかもしれません。これは、まだまだ達成できていませんが人生の目標として精進していきたいと心がけています。
Q4.自分が書いた中で特に思い入れのあるカバレージはどれですか?(好評だった、書くのに苦労した、など)
数え上げればキリがないのですが、特に印象に残ってるものを5つ挙げさせていただきます。それでもかなり多いとは思いますが……
・世界選手権2005準々決勝 浅原晃 対 Marcio Carvalho
この世界選手権はたしか3回目の公式でのカバレージだったのですが、多少はスピードも身についてきて段々と書きたいと思うカバレージを書けるようになってきていたころでした。
浅原さんは前述の通り、僕がカバレージを書くきっかけをくれた人でしたしなにより長い友人でもあったので、強い思い入れで書いた記憶があります。結果としてかなり評判も良く、多くの人に認知してもらうきっかけになったカバレージが書けたと思います。
やはり、書く側に思い入れがあった方が明らかに読んでも面白い記事になる事を再認識し、この後、プレイヤーとの交流やインタビューに力を入れていくきっかけとなった記事でもあります。今読むと、技法的には未成熟な部分も多くて「こことここはこう入れ替えるだろうな」とか思う部分も多いのですが記録とはそういうものなのでいいんじゃないでしょうか。僕の原点のひとつだと思っています。
それと、この時に来ている浅原さんのスーツですが、当然ながらスーツを持ってきているわけもない浅原さんにどうしてもスーツを着させたかった僕と慶太さんが半額ずつ折半し、国別対抗戦をしている4日目のうちに手配して横浜まで持ってきてもらったのもいい思い出です。
・日本選手権2008 2nd Draft Pod#1 Side-B: ドラフトという名のミステリ
ドラフトのピック記事はリミテッドのイベントでは常に存在していたんですが、個人的にただピックしたカードが順番に書かれているだけのピック譜にちょっとしたインタビューが載っているだけのピック記事にはどうしても存在意義が見いだせないでいました。ドラフトの面白さはピックの流れを読んだ即興性にあると思っているので、どうやってリミテッドに興味がない人にそれを伝えるかを考えていました。
この頃には結構キャリアを積んで色々自由に企画もやらせてもらえるようになっていたので、リミテッドのイベントではピック関係で面白い記事が作れないか模索していました。結論として複数人のピックを追いかけつつ卓全体も見ないと面白くならないだろうと考え、当時は複数ピックをとったりパックの合間で全体がどういう状態になっているかを調べるノウハウや、ピックについてインタビューする時にはどう聞けばいいのかのノウハウを蓄積していた記憶があります。
そういったノウハウの集大成として書いた記事だったので印象に残っています。4人分のピックを取り、最初は森・三原・中野の3人のピックを追いかけつつインタビューを挟み、その3人がスルーし続けた白をその下家だった高橋が独占していたというのを最後に明かすという構成もよくできていると思います。これも含めて当時は4人のピックを追いかけた記事を何本か書いていて「あれってどうやってたんですか?」ってたまに聞かれるのですが僕にももうわかりません。技術的には限界に近い事をやっていたと思いますが、もはやロストテクノロジーです。
・世界選手権2009
https://web.archive.org/web/20110615010048/http://archive.mtg-jp.com/eventc/worlds09/
一本というわけではないのですが、この2009年の世界選手権はとにかくがんばったという意味で印象に残っています。4日間の日程で合計で40本、特に3日目は16本の記事をひとりで書いていました。試合中にマッチカバレージを完成させる方法や2本のマッチを同時に取る方法、フィーチャー席じゃないマッチを取る為に立ったまま記事を書く方法、マッチ中に別の記事を完成させる方法や効率よくピック譜を取る方法、初見のデッキテクで質問する方法など、技術的な集大成のカバレージと言えます。
この頃はマッチカバレージばかりのカバレージというのに疑問を感じていた時期でもあったので、3日目は世間的になじみが薄いエクステンデッドだったというのもあって、日本勢が使う全アーキタイプのデッキテクインタビューを掲載したり、ピック記事もちゃんと載せたりと色々無茶をしています。日本勢全員の参加状況まとめも全日掲載しているのですが、ドラフトの使用色や各構築フォーマットで使用しているデッキなども収集する方法がなかったので直接全員に聞いて回ったのを覚えています。
本戦終了後にやっていたMOCSの取材も同時にやっていたのでかなりスケジュール的にはきつかったのですが非常に充実したカバレージとなりました。内容的にも個人的に気に入ってる記事も多いですし、1stドラフトのピック記事をとった浅原さんはいまだにこの記事の話をしてくれたりしますね。3日目は「yayaの奇妙な冒険」の第4部として決勝8人のデッキのスタンダードウォッチングの取材とサイドイベントのツーヘッドの取材もしていたと思うのですが、体力とスケジュールの限界で掲載することができませんでした。
記憶が定かではないのですが、たしかこのカバレージは自分以外の記事も含めてウェブへのアップロード作業も僕がやっていたと思いますので、体力的にも技術的にも人類の限界のカバレージなんじゃないかと思っています。とはいえ、成績確認で全員にインタビューしていたのだから、クイックインタビューもはさみ込めたんじゃないかと今では思います。過去の自分に何か一個だけ教えてあげられるなら、クイックインタビューもできたよって教えてあげたいですね。
・グランプリ横浜10決勝戦:黒田 正城(大阪) vs. 森 勝洋(大阪)
折に触れて「デュエルをすることと、物語を紡ぐことは同じだ。」という冒頭文でカバレージを書き始めるのですが、その究極の形のカバレージです。意外と直接あった時以外に感想をもらう機会ってないのですが、これは掲載された後に色々な人がわざわざメールで感想を送ってくれました。黒田さんとモリカツの二人が直接「ありがとう」と連絡をくれたのがうれしかったですね。
試合自体は正直な話比較的さっぱりしたものだったんですが実際の決勝戦は「すごい戦いを見てる」という空気感が観戦者からもすごいあったので、それをうまく伝えることに成功したのかな?と思います。今読んでも当時の空気感や、マジックのトーナメントシーン全体の雰囲気を思い出すことができますし、自分としては理想に一番近いカバレージを賭けたと思っています。
もはやマッチの記録なんだか僕のエッセイなんだかわからない記事になってしまっていますが、最初にカバレージを書き始める時に決めた理想に対してやってきたことの、マジックのカバレージにおける集大成です。
・日本勢はなぜ、勝てなかったのか
https://web.archive.org/web/20121107070840/http://archive.mtg-jp.com/eventc/ptams10/article/008381/
マッチカバレージではありませんが、多分僕が書いた記事の中で一番反響があった記事だと思います。この当時、僕自身としても日本のプロマジックシーンに色々と思う所があったのですが、実際のプレイヤーたちはどう考えているのか気になったので、いい機会だと思いインタビューして構成したものです。筆者の考えが出すぎているという意見が結構あったのですが、僕自身が考えていたことは彼らのインタビューから見えてきたことと全然違ったので気のせいなんじゃないかと思います。
今読むと粗も多く、少なくともプレイヤーたちが《壌土のライオン》というカードの存在そのものを忘れていたかのように読めてしまう構成(実際に彼らが気が付いていなかったのはドランにマナクリーチャーではなく《罰する火》に耐性のある小型クロックを入れるという発想)と、最後のまとめ方への流れに関してはもうちょっとどうにかならんかね?とは思っているので書き直せるなら書き直したいですが、記録というのはそういうものですから仕方ないです。情報そのものは物凄い古いので役に立ちませんが、当時の空気感は今読んでもすごく伝わるんじゃないかと思います。
まつがんがあのクソの第4回を書く時に問題意識として冒頭で上げていたり、僕の想像以上に色々な人の心に残っているようで感慨深いです。他の全記事の作業が終わってから屋根裏部屋のようなホテルの部屋で徹夜で書き上げて、空港に向かう直前にアップした甲斐もあったというものです。
Q5.カバレージライターをしていて印象的だった出来事は?(よかったことでも、大変だったことでも)
なにより自分の書いたものを多くの人に読んでもらえてリアルタイムも含めて多くの反応をもらえたのが一番貴重な経験だったと思います。反応の内容のいい悪いは関係なく、とにかく反応をもらえたのがうれしかったです。
カバレージをきっかけに今の仕事にもつながっていますし、多くの人と出会えたり、素晴らしい試合を目の前で観れたり、様々な所へ行く経験をさせてもらえたりと貴重な体験をたくさんさせてもらいましたが、やはり自分の文章に多くの反応をもらえたことと、それに応えるべく技術的にも精神的にもアップデートし続けた5年間というのが自分の人生にとって印象的な期間となっています。
具体的な体験ベースなら2009年の日本選手権が終わった後に決勝を戦っていた二人に拉致されて中村修平さんの家で一週間くらい延々とM10リミテッドをやり続けたのが印象に残っていますし、記憶ベースでは2005年の世界選手権準々決勝でCarvalhoの《迫害》に浅原さんが《マナ漏出》を撃った瞬間にフィーチャー席にまで歓声が聞こえてきたのをよく覚えています。
以上です。
読んでて「え?これどういうこと?」と思った事や感想などはTwitterのリプライなどでいただければ、逐次お答えしたり、この記事の末尾に追記するかもしれませんので、お気軽にお声がけください。