【パワポ研のパワポ資料探訪36】フジ・メディアHD社の決算説明資料は、典型的な日本風なスライドの集まり
様々なパワーポイント資料について解説するこのシリーズ。
毎回大変好評をいただけておりまして、おかげざまで引き続きシリーズを重ねられております(好評だった初回Goodpatch様の記事は以下)。
今回も見どころあるパワーポイント資料について紹介させていただきます。
対象とするのは、フジ・メディア・ホールディングス社の決算説明資料。同社はフジテレビを中心にメディアを本業とする企業です。
それでは早速見ていきましょう。
表紙
結構ビビッドにグラデーションが入っています。これは少し今風ではないかもしれません。また、ちょっと文字が見づらくなる対策として、会社名が袋文字になっています。
目次
気になったのは、各章の番号が四角形で囲われている部分でしょうか。最近のパワポは「余計な枠線は減らす」ということが意識されているので、あまり見ない形式です。また、もし枠で囲うのなら上下中央としていただけたほうが、違和感がもう少し少ないかもしれません。
今期の動き
いわゆるスライドメッセージがないスライドになっています。
確かに「年初来株価は10%マイナス」というのは言いづらいところでしょう。そういう場合は、投資家に対して最大限よく見せる場合は、このスライドごと撤去して、別のアピールポイントを探してなにがしか主張するものです。あるいは、他の指標を組み合わせて「思ったより(=数字ほど)悪くないよ!」と主張するなど。良くも悪くも正直過ぎるかもしれません。資料全体の1枚目に出さなくてもよい、という選択肢もあるでしょう。新規投資家はこれを見て、少し尻込みをしてしまうかもしれません。
スライド下部については、ちょっと文字が小さいので「読ませる」ためのスライドではないことがわかります。「こういうことがありました」ということをとにかく並べている、というものです。もし読ませたいなら、表の中でも余白を作り、また可読性が高いフォントにすることがその対応となります。
事業・業績概要
とにかく情報量が多く、なんとしても1枚のスライドで全てを表現する、という意図が見えます。我が国に多く見られるスライドの様式です。
構造を理解するのに、少し時間を要するかもしれません。
真ん中の濃い青が数値データで、それを左右の「メディア・コンテンツ事業」と「都市開発・観光事業」でそれぞれ解説する、というスタイルのようです。そして、その要因が箇条書きでいろいろと書いてあります。
また、真ん中のドーナツは、内側が営業利益、外側が売上となっています。この形式のグラフを使うなら、普通は内側が「売上の大分類(例えばメディア)」で、外側が「売上の小分類(例えばタイム、スポットなど)」とすることがほとんどでしょう。ここでは全く違う指標である営業利益と売上を並べているため、少し読み手の混乱を招くかもしれません。
補足になりますが、このグラフの構造では、あるセグメントの営業利益がマイナスの場合はグラフが成立しなくなります。この資料作成時ではそのようなことはありませんが、もしそうなった場合は、資料構成の変更が必要になります。
また、その下に「資本集積性の向上策」と「通期見通し」と書かれています。これは少し情報量、もとい構造が渋滞しているように見えます。
連結 ポイント
前のページが情報過多だった割には、こちらのページはかなりすっきりしていますね。少し情報量を分散させてもよいかもしれません。
一般に、グラフの使い方の方針として「ありのままに見せる」か「強調して見せる」があります。このスライドで言えば、一番左が(一応)「強調」で、真ん中と右が「ありのまま」ということになります。理由は、X軸です。左のグラフはゼロ起点ではなく2,500起点なので、注目すべきポイントを自身で設定していることになります。
それを踏まえると、特に真ん中は「6.6%増加」という良い成果があるのですから、より強調するために、例えば100スタートとかにしてもよい(あるいは、道中を波線で削るなど)かとと思います。
なお、強調表現はあまり悪いことではなく、むしろ差が少ないグラフは単純に見づらくなりますので、誇張や嘘がなければ、表現変更の範囲内での工夫は、むしろ歓迎すべきことかと思います。
連結 決算概要
可読性を底上げするならば、この表の下のグラフは少しその余地があると言えます。工夫すべき余地は(少なくとも)3つあります。
まず、売上高と営業利益の話をしたいなら、別の紙にしてもよいでしょう。このスライドに全部入れる必要はないですし、紙面の構造が上下かつ左右に(無意味に)分割されており、少し読み手にストレスを与えます。また、上の表はもう少し圧縮できますので、そうすることで紙面の効率性も上がります。
次に、グラフの文字が潰れて少し見えづらいことは事実かと思います。売上の部分は特に顕著で、グラフの幅に収めようとする意図は分かりますが、やはり少し窮屈になって見えます。右の営業利益の数値ではあまりはみ出しに敏感ではないことを鑑みると、少しゆとりを出してもよいかもしれません。なお、文字色もグレーで背景色と重なり、視認性を上げる余地があります。
最後に、左と右のグラフでフォーマットが違うことも、混乱を招くかもしれません。左は合計値、右は四半期毎に横並びとなっています。理由としては、営業利益はマイナスになることがあるので、このような表現にしているということかと思いますが、同じスライド内では、同じ表現の方が望ましいかもしれません。このあたりの「どちらをとるか」というのは悩ましいところです。
セグメント別 売上高と増減要因
このスライドは、今までのスライドと比べて非常に見やすいと言えるでしょう。
まず情報量が適正ですね。少なすぎず、多すぎず。特に、売上の話だけしているのがよいです。
そして、色が分かれているのもよいです。資料全体で、セクション(メディア・コンテンツや都市開発・観光など)別にテーマの色が決まっており、その色が全てのスライドで意識されているのは見やすいです。ただし、「その他」の黄色地に白文字というのは、少しチカチカしますね。
連結 貸借対照表
このスライドは、少し掲載する情報に整理が必要かもしれません。
この表が分かりにくい最も大きな理由は、下に余計な表があることです。この「参考:都市開発関連資産」という表は、別ページで表現した方が、上の本体の表がもっとクリアに見えたのではないでしょうか。あるいは、掲載するなら年次の軸を合わせるなど、もう少し工夫があっても見やすくなったかもしれません。
いずれにせよ、軸(切れ目)が違う表を入れると、読み手に少しストレスを与えます。この場合はなんとも言えませんが、一般に作り手は「ちょっと補足で入れただけ」と思うかもしれなくとも、それは良い手法とは言えない場合がほとんどです。
決算のポイント
本資料全体に言えることですが、全体として構造を気にせず情報を詰め込む傾向が強いのかもしれません。
例えばこのスライドは、妙に縦軸が揃っているから「ビーエスフジ」と「ポニーキャニオン」は仲間で、「ニッポン放送」と「フジパシフィックミュージック」も仲間、更に一番右の3つも仲間……と誤解する人もいます。それほど、縦軸と横軸の構造は重要です。
もしこのスライドを修正するならば、(多少文字を小さくしても)上下二段にして、上段に3つ、下段に4つにするか、あるいは「増収」みたいなくくりで示すか、あるいは「映像」「音楽」などの新しいくくりとするか。いずれにせよ、構造を意識した配置としたほうが、既存株主はともかく、新規投資家にフレンドリーと言えるはずです。
決算のポイント
このスライドも、構造を少しなおせば、ぐっと読みやすいスライドになる余地があります。
まず、縦軸が「ポイント」「放送・メディア」「コンテンツ・ビジネス」という切り方になっていますが、「ポイント」もセグメントの一部に見えてしまいます。色を変更して差別化を図りたいところです。
そして、「放送・メディア」と「コンテンツ・ビジネス」の大きさが異なり、かつその中で「映画」とか「デジタル」とかに横で分かれているのも、少し解釈が難しいので、どうせなら全て横並びの表としたほうが読みやすいかもしれません。つまり、大分類に「放送」「コンテンツ」などのセグメントがあり、その下位に「放送収入」「映画」などがある構造です。
また、これはどうにもなというところとして、「アニメ開発」の下に「イベント」があること。アレグリアも昆虫MANIACもアニメに関係ないただのイベントですが、この構造ではアニメの下位に位置するように見えてしまいます。
もう少し「余白」を意識すると可読性が上がるかと思いましたが、実際に下のスライドのように、資料内でも好例があります。
サンケイビル 決算のポイント
このスライドは構造もしっかりしており、また余白も適度に見やすいでしょう。欲を言えば「住宅等」と「オフィス等」の文言が重複しているので、左に寄せてしまってもよいかと思います(が、こだわりの問題なのでどちらでもよいかと)。
サンケイビル 今後のトピックス
また構造の話ではないのですが、トリミングの重要性というのは、もう少し周知していきたいところではあります。自社のコンテンツ(商品)なので、切り取りや画素の調整などはもう少し柔軟に対応できる場合が多いでしょう。例えば左下の分譲の画像は、左側の枠よりも大きくなってしまっております。社内資料ではこのレベルで問題はないのですが、対外資料なので、少し時間を投入して丁寧に処理すれば、見え方もかなり変わるかもしれません。
中期グループビジョン
このスライドに関しては、色の使い方が難しいですね。ディスプレイの状況によっては、縦軸が何も見えないということもあり得ます。注視すれば「資本収益性の向上」と「ガバナンス」ということがわかりますが、強調したい意図はわかるものの、中の文字を黒色にしてもよいかもしれません。
まとめ
情報量が多くなるスライドでも、構造を重視して改築した上で、余白をとる勇気をもってスライドを分割するなどの対応をすれば、見やすくなることがわかります。もし資料を作成する際には、同じ資料の中でも、読みやすいスライドとそうでないスライドとがあるかと思いますので、できるだけ読みやすいスライドに寄せた構成・構造にすることで、読み手フレンドリーな資料になるはずです。
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