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化学屋から見たリチウムイオン電池の不思議:アノードフリーリチウム金属二次電池に電解液添加剤は効くでしょうか?

 久しぶりの投稿です.  
 今回は2021年,カナダのDahn教授の研究グループの研究結果を紹介します.

A.       Eldesoky, A. J. Louli, A. Benson, and J. R. Dahn, “Cycling Performance of NMC811 Anode-Free Pouch Cells with 65 Different Electrolyte Formulations.” Journal of The Electrochemical Society, 2021, 168, 120508,

 リチウム金属二次電池は電池全体のエネルギー密度を向上させるための究極な手法として,盛んに研究されています.学術的な研究にとどまらず,電池会社も本格的に乗り出しています.研究の対象は,いかに充放電中のリチウム金属の損失を低減させるかに集約されています.この損失を低減できれば,一歩実用に近づけるからです.例えば,電気自動車(EV)に適用するために,充放電800サイクル後に電池容量が80%以上残っていることが一つの目安として追求されています.そのために,リチウム金属の損失を抑え,充放電800サイクルに耐えられるようにすることが目標とされています.
 リチウム金属の損失を低減させる手法として,電解質の最適な組み合わせを探索する論文が多く見られます.この中には電解液添加剤も含まれます.2021年,カナダDalhousie Universityに所属するDahn教授の研究グループが,溶媒―塩―添加剤の組み合わせを変え,計65種類の電解液をテストしました.電池正極にはNMC811を使い,負極はアノードフリーで銅箔を使用しました.電解液のベースは0.6 M LiDFOB +0.6 M LiBF4 in FEC:DEC (1:2 v/v)の炭酸エステル電解液※でした.
 電池を40℃,140サイクル充放電した時点の総充放電電気量で電池の優劣を評価しました.電池の容量が減少しなければ,同じサイクル数の中で総電気量も優位性を示すからです.なぜ800サイクルではなく,140サイクルかの記載はありませんでしたが,140サイクルで電池性能がほぼ失われたからです.その結果,65種類の電解液の中で,ベース電解液より総電気量が増加したのはわずか4種類でした.しかも,増加の割合はわずかなものでした.気になると思いますが,冒頭で言及した充放電800サイクル後に電池容量が80%以上残っている目安には程遠い結果でした.

 この結果を見ると,電解液に添加剤を添加しても,ほぼ効果がないように見えますが,この結論は時期尚早だと言えます.65種類の組み合わせは多いように見えますが,実際,溶媒の種類,稀釈溶媒の種類,支持塩の種類,添加剤の種類,それぞれの混合比などを考えると,それらの組み合わせは無限にあるといえます.65種類はその極々一部に過ぎません.今後の探索が待たれます.

※     R. Weber, M. Genovese, A. J. Louli, S. Hames, C. Martin, I. G. Hill, and J. R. Dahn,
“Long cycle life and dendrite-free lithium morphology in anode-free lithium pouch cells enabled by a dual-salt liquid electrolyte.” Nat. Energy, 4, 683 (2019).

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