化学屋から見たリチウムイオン電池の不思議:リチウム金属負極は絶望的??
化学屋から見たリチウムイオン電池の不思議:リチウム金属負極は絶望的??
読者の皆様,今年(2021年)は大変お世話になりました.誠にありがとうございました.2022年も引き続きよろしくお願いいたします.
今回はリチウム金属負極について少し触れます.
以前の回でリチウムイオン電池にはリチウム金属が使われていませんと申しました.現在の携帯デバイスやノートパソコンに使われているリチウムイオン電池の負極には,主に炭素材料が使われており,ケイ素材料が一部混ぜられているのが現状です.しかし,エネルギー密度を一層向上させるため,リチウム金属を負極に適用する研究開発は常に進められています.リチウム金属を使うために解決しなければいけない課題を少し触れます.
課題は大きく分けて二つあります.一つは安全性の問題で,もう一つは耐久性の問題です.安全性については,リチウムが負極で析出するときに樹状結晶が形成し,それがセパレーターを突き破って短絡を起こすことです.短絡によって急激な温度上昇が起こり,極端な場合は爆発を引き起こすことがあります.耐久性については,リチウム金属が電解質と反応して消耗されることです.この二つの課題は表裏一体の関係にあり,耐久性を改善することにより樹状結晶の形成も抑制されると考えられています.
しかし,2021年3月に米国スタンフォード大学のCui教授の研究グループがNature Energyに,リチウム金属と電解液の反応に関する論文を発表しました(Corrosion of lithium metal anodes during calendar ageing and its microscopic origins, https://doi.org/10.1038/s41560-021-00787-9).この論文によりますと,リチウム金属と電解液の反応は止められないかもしれないそうです.論文の著者らの研究グループで組んだ電池において,24時間放置するだけで容量の少なくとの2-3%が失われたそうです.研究グループはさらに最新のクライオ透過電子顕微鏡(Cryo-TEM)技術を駆使し,電解液と反応した後のリチウム金属を観察しました.その結果,反応生成物として膜が形成し,その膜が時間経過とともに厚くなっていくことが観察されました.すなわち,リチウム金属と電解液の反応が止められていないということでした.反応が止められない以上,反応を抑制する手法としては,リチウム金属の表面積を増やさないしかありません.
ここまで読むと,リチウム金属と電解液の反応が止められないので,リチウム金属を負極に適用するのは絶望的ではないかと思われます.しかし,それはあくまでも現段階の技術の結果でしかありません.逆に考えますと,これから反応および樹状結晶形成を抑制する技術を開発すれば,大きな革命が起きるということです.読者の皆様もチャレンジしませんか.
2022年もよろしくお願いします.
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