化学屋から見たリチウムイオン電池の不思議:リチウム金属負極についてもう少し
化学屋から見たリチウムイオン電池の不思議:リチウム金属負極についてもう少し
(2022年)新年あけましておめでとうございます.本年もよろしくお願いします.
今日はリチウム金属負極についてもう少し触れます.
近年の論文誌などを調べますと,リチウム金属負極について論文が多数発表されていることがわかります.それらのタイトルを見ますと,リチウム金属負極は実用レベルに達しているように錯覚することがあります.しかし,実際のところリチウム金属負極はまだ実用レベルには達していません.解決すべき課題がまだまだあります.
米国パシフィックノースウェスト国立研究所の研究グループがリチウム金属負極に関する論文を多数発表しています(例えば,Ren et al., Joule 3, 1662–1676 (2019): Enabling High-Voltage Lithium-Metal Batteries under Practical Conditions, https://doi.org/10.1016/j.joule.2019.05.006).このグループは実用電池と同等条件で試験をしています.彼らの見解をまとめますと,実用電池の条件は
1, 余剰リチウムを多く使わないこと
2, 正極をできるだけ高容量にすること
3, 余剰電解液を使わないこと
4, 充放電を急がないこと
などが挙げられます.
原点に返って考えます.リチウム金属を負極に使用する目的は電池のエネルギー密度を向上させることです.そのために余剰なリチウムと余剰な電解液を使うと,せっかくリチウム負極で稼いだエネルギー密度が相殺されることになります.また,正極容量を犠牲にして,サイクル試験を速く終わらせることも,エネルギー密度向上に逆行します.したがいまして,実電池に近い条件で試験をしないと,試験の意味自体が分からなくなります.コイン電池の場合,電解液量の制御が難しいので得られた結果を解釈するときに特に注意が必要です.
もちろん,リチウム金属負極の課題は20世紀70年代から取り組まれてきて,数十年かけてもまだ解決できていない難題です.一気に解決することは期待しません.そのために,ステップを踏んで一歩ずづ確実に進めることは常套手段と言えましょう.重要なのは現在どのレベルにあるか,残りの課題は何なのかを冷静に認識することでしょう.
化学屋から見れば,課題の解決策はやはりリチウム金属と電解液の反応を抑制することにあると思います.読者の皆様も挑戦しましょう.今なら巨人の肩に立てます.
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