読書メモ『毛~生命と進化の立役者~ 』
『毛~生命と進化の立役者~ 』(稲葉 一男 著)
タイトルから髪の毛の話かと思いきや、いわゆる鞭毛などの細胞の毛の話だ。どんどんミクロな話になっていくのだけど、一方で人体の働きから生態系に環境問題から果ては宇宙の構造まで思いを馳せる。かといって強引な飛躍なんかじゃなく、一つ一つは確かに結びついていてどんどんと引き込まれる。
とはいえ、メインの話は細胞の毛だ。どんな構造になっていて、どんな風に動いていて、どう動きをコントロールしてて、どんな種類があって、どんな進化をしてきたのか、を細かく解説してくれる。細かい、というのは文字通り分子レベルの話で、この辺は専門家じゃないので「へー、そうなんだ」と鵜呑みにした。
そんな中で匂いを識別する細胞の毛の話から、匂いの話、鮭が水中のアミノ酸の匂いを嗅いで川を見分けていることまでなめらかに繋がっていく。精子の話題から僅かなイオンの変化が水生生物に大きな影響を与えるという地球規模の視点まで、縦横無尽に様々なことと結びつけ読者の興味を誘う。このあたりは一般向けの本としてとてもこなれている。
特に印象に残ったのは、「毛」の構造は非対称になっていて、動くっていうのはそういうことが必要なんじゃないの、そういう非対称の持つダイナミズムが宇宙を形作ってるよね、と語りかける場面。書いた人がどんな人なのか、そこに現れて話しをしているような、大げさにいうなら書いた人の魂に少し触れるような味わいがある。
(そういえばタイミングよくこんなニュースが流れてきてた。自発的対称性の破れ的なやつなのかな)
https://nazology.net/archives/127249
学会の話、世界の海辺の研究所話、釣りの話、イチョウの話(イチョウの本で詠んだやつだ!)……ウニやミジンコの話も面白い。
著者は世界中の水生動物の精子を30年間集めてきたという。こういう人が世界には必要なんだね。
あと気になるのはこの部分
こういうのを知るとやっぱり地球温暖化(と二酸化炭素の増大による海水酸性化)はやばいんだなとひしと感じる。やっぱりグレタさんは正しいんじゃないでしょうか。