マクドナルドの思い出
数日前、マクドナルドのハンバーガーが食べたくなった。一年に何度かくるこの欲求を、いつもなら健康志向なもう一人の自分が抑制するのだが、今回はなかなか姿を現さない。
うまい棒を「まずい棒」と呼ぶ母の下、マクドナルドやカップラーメンを片手で数えられるくらいしか食べる機会のない家庭で育った。だからマクドナルドのハンバーガーを食べるのは、どうしても欲しいハッピーセットのおもちゃがあったりした、ちょっと特別なとき。滅多にないからこそちょっぴり嬉しくなる食べ物だった。
十五歳の春に第一志望の高校に落ち、生まれて初めて強烈な悔しさを経験し、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら帰宅したその日の昼食は、駅前で母が買ってきたマクドナルドだった。食いしん坊の私には珍しく食欲が湧かず、こんな時に”特別な”マクドナルドなんて、ありえないと思った。
十六歳の冬に大事な人が亡くなったとき、葬儀場に遺体を運ぶまでの待ち時間に無表情で突っ立っていた私の前には、親戚が用意してくれたマクドナルドがあった。心遣いはとてもうれしかったけれど、食べられなかった。
それから今に至るまで、コーヒーやシャカシャカチキンなどサイドメニューを食べることはあっても、ハンバーガーを食べることはほとんどなかった。体にあまり良くないという理由以上に、それはハンバーガーの呪いとでも言うのか、何かまたあるとしたらそれはハンバーガーを食べる前だろうと分かっていても、良くないことが起こるのではないかとびくびくしていたからだった。
数日間の葛藤の末、インターネットで念入りに調べ、今日遂にダブルチーズバーガーとえびフィレオをテイクアウトした。当然のことながらホームページの写真とはボリューム感に少し差異があったけど、ダブルチーズバーガーのピクルスの酸味、えびフィレオのオーロラソースが良いアクセントになっていてとても満足した。これからはハンバーガーを食べたら良いことが起こると願いながら、ハンバーガーの包みに残ったソースを舐めて食べ終えた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?