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アメリカの公立高校の現場では今 -「オンライン学習」への移行に向けた努力- その2
そもそも、遠隔で学習の継続を行うツールにどのようなものがあるだろうか。私の子どもが通うカウンティでは、オンラインやTV、電話、印刷物などを挙げたが、結局、革新的なツールがオンラインだと結論づけた上で、「オンライン学習」への移行に舵を切り、一丸となって推し進めている。日本の教育現場では、どれくらいデジタルを用いた教育が進んでいるのだろうか。今回のような緊急事態へ対処するにあたり、普段から学校レベル、そして個々の教師レベルで、どれくらい慣れ親しんでいたかが、円滑な「オンライン学習」への移行による「学習の継続」の鍵ではないかと思う。
カウンティの背景だが、私の子どもが通うカウンティは、Pre-K(幼稚園年中相当)からG12(高校3年)まで総生徒数16万6000人を抱え、州に23あるカウンティの中で、最も大きいカウンティである。アメリカの首都ワシントンDCに一番近く、大手民間企業本部や、医療・宇宙開発を含む政府研究機関のオフィス等があり、その周辺の高校だけ見ると恵まれた環境にあるが、他方で、総生徒数の三分の一に相当する約5万5,000名の生徒が低所得家族(low income families)に属し、カウンティから学校での朝食・昼食が無料という食事サービスを受けているのが実状だ。
カウンティ全体では、どの公立高校にも、生徒一人に一台のラップトップ(Chromebook)が用意されている。そしてオンラインで教務や授業を行う仕組みとして、カウンティ教育委員会が独自に開発した電子システムと、Google Classroom、の2つのプラットフォームが存在する。カウンティ独自のプラットフォームは、各生徒の成績と出欠状況の情報が一括管理され、教育委員会からのヘルプデスクサポートを受けられる反面、機能が複雑であるのに対し、Google Classroomはシンプルで簡単であるけれど、多機能ではないなど、一長一短ある。そのため、どちらのプラットフォームを選択するかは教師に任せられ、臨機応変に運用されていた。
オンライン学習へ移行する前段階で、こうした状況にあった。今回、急なオンライン学習への移行に際し、まず問題になったのは、各家庭においてオンライン学習を進める上での基本インフラである。3月10日の教育委員会理事会によると、昨年実施した調査で5万8000名(総生徒数の約35%)から回答を得られたが、そのうち、パソコンを持っていない生徒が10%で、インターネットへのアクセスがない生徒は7%だったことがわかった。そこで、全ての生徒がオンライン学習を進められるように、カウンティは4万5000台のラップトップ(Chromebook)を用意し、各高校で貸与を行った。また、インターネットへのアクセスについては、大手情報通信会社Comcastが、FCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)イニシアチブに基づき、低所得の家族に対して2カ月間の無料インターネットのサービスを開始、他方でカウンティは、そのインターネットにアクセスするためのモバイルのwe-fiホットスポット機器の購入資金として、25,000ドルの寄付をカウンティに本社があるロッキード・マーティン社から受け取ったという。
このように、私の子どもが通うカウンティでは、「学習の継続」を打ち出し、突然の学校閉鎖から2週間の間に、「オンライン学習」への移行に向けて急ピッチで進めていた。こうした不測の事態が起こる前からデジタルを用いた教育を行う環境があったこともあるが、他方で、民間の通信会社や連邦政府が間接的に果たす役割も大きい。今回、FCC(連邦通信委員会)が“Keep Americans Connected”イニシアチブを打ち上げ、新型コロナウイルス蔓延という緊急事態への対応策として、低所得の家族に対して、ブロードバンドや電話でつながることの重要性を訴え、インターネットの無料提供や支払いの延滞許可などを行っている。