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にゃあ日記2

 にゃあはざっくり数年前の平成30年、関西に大きな爪痕を残した台風21号のあとに前触れもなく姿を表した身体の大層大きい猫のこと。

大きいとは云うものの、身体は痩せていてるし佇まいは矮小で必ず手の届かない離れた位置からこちらを一瞥しては立ち去る変な猫だった。

 大きな猫はペットショップで見かけるようなグレーの短毛種で、別に猫に詳しくなくともそれくらいは知っているロシアンブルーで首輪はしていなかった。

 その頃猫に名前はなく【外飼いの子】とか【高級猫】などと好き勝ってにその日の気分で呼称していて、
 付き合いは無いもののお隣さんが【最近よく見る灰色の猫】と呼んでいるのを耳にしたこともある。

 住まいの賃貸マンションは、壁も薄く別に盗み聴く意図はなかったが〈あいつのことやなと〉マスターも少々気には留めていた。

 猫は思いのほか臆病で、必ず他の目を掻い潜って姿を現す。
何かをねだる事もなし距離を詰めることもなくいつも遠い位置からマスターをただじっと見るだけ。

「あんたは、何がしたいのぉ?」

 猫は意に介さず、誰もいない共有廊下のスミッコや階段の踊り場から定期的にじっとこちらの様子を伺う。

 どうやら私は、猫の監察対象になっていると思ったそうな。

 〈今日も監視されてるな〉

と思ったが不思議と気味悪いと感じたことはなく用心警護のSPが私を見守っているんだなと思うことにした。

「毎日ご苦労様です」

 そんな付かず離れずの関係も気がつけば一年も経過していて長かった平成は終わりを迎えた。

 新しい元号は令和に決まった。

激動の始まり

3へ続く

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