にゃあ日記9
ジャレは十中八九、給食センターの残飯を求めてやってきた野良が飼い主不在の合間をねらって春の繁殖期、やるだけやって産まれた猫に違いないと言う。
ジャレと同じ模様の猫が、公園にたくさんいたからというのが理由らしい。
おそらくそうだと私も思った。
不幸の連鎖を予防するため、
今なら避妊手術となるのだろうが、ジャレは動物病院を知る事なく血気盛んな猫へ成長する。
一方、容姿を気にしてりんごダイエットに励む女子に成長したマスターも猫に避妊手術なんて発想には当時至らなかったようだ。
庇うわけではなく今の当たり前と所謂、昭和の感覚は大層違う。
そんな環境の下、気性の激しいジャレは縄張り争いの激戦区で負傷することも度々あった。
しかし喧嘩に負けた姿は、一度として見たことがなく、視界に入った猫をよく追い駆け回していた。
今なら煽り運転と言われても仕方がないほどに。
顔になま傷が絶えないジャレが、部屋では家猫らしく振る舞い毛繕いに勤しむ姿を見て少し誇らしい気持ちもあったかもしれない。
何せ中学生女子は、喧嘩が強い男子が好きだから。
タマをとっていれば、少しは自宅で大人しくしていた未来もあったかも知れない。
しかしジャレは、自宅周りを縄張りに持つ雄猫なのだ。
簡単に給食センターの利権を渡すなどあり得ないことなのだろう。
幸にして大きな怪我はした事もなく、帰宅したジャレが真っ直ぐ向かうのは妹ではなくいつも姉の私の部屋だとマスターは笑う。
「お姉ちゃんばっかりずっこいわ!」
そんな声が聞こえてきそうで
私も可笑しくて笑う。
そんな日常が当たり前で可愛いなとジャレを愛でていたある日、
ジャレの顎に少し違和感を感じた。
<なんやろ?>
と思ったらしいがさして
気に留めることはなかった。
それから数日後のこと。
ジャレが給食センターの駐車場で死んでいた。
顎のコブが大きくなって破裂して
息絶えていたと言う。
ほんとうに腫瘍が破裂することなんてあるのか?
私にはわからない。
マスターは腫瘍をガングリオン
だと説明してくれた。
私は初めて耳にした言葉だったが、以後マスターを真似てコブをガングリオンと言うようになった。
10へつづく