
にゃあ日記
誰もいないバーのカウンターにぽつんと鎮座したスコッチウィスキーのボトル。
ラベルに目をやると白壁造りの小さなロッジがパステル調で描かれている。
ロッジはハイランダーインといい、スコットランドのクライゲラヒという小さな田舎町に実際にあるらしい。
ラベルに描かれた宿泊客は、皆一様に楽しそうで明日の計画や本日のトピックなど皆おもいおもい話しているのだろうか。
それとなくロッジから目を逸らしラベルの端っこに目をやると
そんな喧騒などどこ吹く風と
小さな猫が我関せずと何か物想いに惚けている。
〈スコットランドかぁコロナで旅行どころじゃねーな。〉
店主が席を外しているので手持ち無沙汰な私は、徐に手にしたレジ袋から黒い缶詰を三つ取り出して、
ハイランダーインが描かれたボトルの真横に積み上げてみた。
「本日オープン。ホテル・クロカン」
黒い缶詰には、プレミアムや総合栄養食の文字が書き連ねてあり一見すると我々人間のお摘みだが、目を大きく見開いた猫がコチラをじっと正視している。
要は人間用の缶つまではなくキャットフードなのだが、私は生き物は何も飼っていない。
この通称クロカンは、敬愛するマスターの愛猫に献上しようと先程コンビニで購入したものだ。
見切り品のシール付きなのは
言わぬが鯖のご愛嬌。
程なくして店のマスターがお手洗いから戻ると、ボトルの横に建築されたホテル・クロカンを軽く一瞥する。
〈猫缶が積んであるとウケるかな?〉
そんな企ては
「何やってん」
の一言で片付けられた。
〈まぁ にゃあが喜んでくれたらソレでいいけどね。〉

2へ続く