にゃあ日記16
憑き物が落ちるではないが、ガングリオンは双方にとってよからぬモノだったことは確かなようで、顎下に歪さがなくなるとマスターが身構えるほど、やたらと積極的にスキンシップを求めてきた。
以前の様に東の畑の方角から飛んでやってくるのは、相変わらずだがマスターの足に身体を絡めて敬慕の念を示す。
「ごきげんよう!」
それはもうマスターのことをもっとよく知りたいと努めているように見えた。
〈かわいいやないかい…〉
じゃ、にゃあちゃんいってくるね!
本来、マスターのお店の営業時間は夜八時から翌朝五時まで。一時間前には店に到着したいので大体七時には家を出るのが習慣だ。
寝室にクーラーやテレビがないマスターは、営業自粛中も店に出る。
無論、活動すると給付金が降りないのでただ店の中で本やYouTubeを見て過ごす。
自宅にいるとコロナの沼にどっぷり浸かりそうで怖いのだ。
無論、看板の電気は落としたまま。
ゴーストタウンと化した商業地域は、生活音の一つもなく冷蔵庫のモーター音が心音の様に聞こえた。
店は車で五分の隣町。幹線道路を大阪方面に進むと街のホームドクターがキャッチフレーズの信用金庫が見えてくる。
その信金に隠れるよう裏道の暗がりに存在するマスターの根城でにゃあのことを今一度考えてみた。
17へつづく