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#7 引っ越し先の不思議な鏡

初めまして。
私(わたくし)、一般企業で勤めております、至って普通の社会人です。
これまで人生の中でこれといった才能も、ごく一部の人しか経験できないような事も起きないない、至って普通の一般人です。



いや、普通の一般人でした。昨日までは。



先日引っ越しをしたんですね。
あの、あらかじめお伝えしますが、事故物件を選んでしまったわけではないですよ。
至って普通のマンションです。価格も周りの物件と比較して安過ぎるとか高過ぎるとかもないです。
何度も言いますが、本当に何処にでもあるような部屋なんです。内見でもそれといっておかしな点というか、まぁ、申し分ないなと思ったんですよ。

ですが、引っ越しをしてから1週間ほど経ったある日。いつものように洗面台に立って顔を洗ってたんです。そしたら、

「いい加減気づいたらどうなの?」

何処からか声が聞こえるではありませんか。もちろん、一人暮らしでしたので私以外に誰かがいるなど考えられないのです。

「鏡よ、鏡」

(鏡?)

「鏡よ、鏡!この世で1番美しいのは誰?の!」

まさかですよ。こんなことがあり得ていいのかと思いますよね?
あの白雪姫に出てくるのあの鏡だったのです!

「私、何も聞いてませんが……」
「今そこじゃないでしょー!」


鏡が喋ったことにも、かの有名な、恐らく世界で1番有名だとも言える鏡が引っ越し先のただのマンションの一室の洗面台に備え付けられていたのです。

「あなたがこの世でどのくらい美しいかわかる鏡を手にしたの!こんなに名誉あること他にある?」

しかし、私は美しさ、かわいさなどという第3者が勝手に決める指標に興味がなかったんですよ。だから、そのような意味でこの鏡に聞くことは何もなかったんです。


「あの、鏡さんすみません。私の後ろ髪跳ねてませんか?」
「跳ねてないわよ…!」


何よともあれ、そんな不思議な洗面台との生活が始まりました。


それから数ヶ月が経った頃、同僚から

「好きな人できた?」

と聞かれました。

「何でそう思うのですか?」
「だって身だしなみとか髪型とか前より気にするようになったから」

なるほど。身だしなみは気にするようになりました。正確にいうと直すことができるようになりました。
そうなんです。鏡が私の身なりを指摘してくださるんです。
私は昔からショートカットなもので特に寝癖がひどかったんですよ。家族と暮らしていた時は親に聞いていましたが、一人暮らしだと聞く相手がいませんから、会社の同僚に指摘されていました。なので、そういう意味ではとてもこの鏡には助かりました。

同僚の予想は大きく外れているわけです。しかし、これがなかなか信じてもらえない。

「じゃあさ、今度お家行って良い?」

いささか流れが掴めないまま、その同僚、A子としておきましょう、を家にあげることとなりました。

「洗面所使っていい?」

私は少々鏡に気づかれないかは不安でしたが、疑われる事もなく、そして、色恋がない事も納得していただいて無事その日を終えました。

その夜。

「ねぇ、ちょっと!」
「なんでしょうか?」
「あの子どういう関係?」
「会社の同僚ですが」
「もうこの家に呼ばないでくれる?」

鏡にも主張があるんですね。

「なぜですか?」
「あの子ブサイクだからよ」

いやいや、A子は世間的に見ればかわいい部類に入ります。顔も整っていますし、スタイルも良いです。また、会社でもみなさん口を揃えてA子をかわいいと言いますし、実際、男性からモテているのも知っています。だから、鏡さんがブサイクと言った意味が私にはわかりませんでした。

「香水の匂いも強いし、ろくな女じゃないわ!」
「鏡さん、匂いもわかるんですね」
「美しいか、美しくないかを顔だけで判断してると思ったら大間違いよ!」

「あら、そんなに驚いていないようね」
「不思議なもので納得しています」

鏡さんはそれ以上のことは話しませんでしたが、要するに外見だけではないのでしょう。

「あなた、私に興味でたでしょ?」
「当初よりは興味が持てました」
「全く可愛くないわね」


というわけで、至って普通の一般人である私の少し不思議な体験談でした。契約満了まではこの生活を少しは楽しもうかなと思っている所存です。

ご静聴ありがとうございました。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました😊 

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