爆買い中国人

爆買い中国人

買いまくる中国人。
どんどんカゴに入れていく。
なんでもカゴに入れていく。
肉、野菜、サラダ、小松菜、
レンジ、WiiU、WiiFit、Wii、
生キャラメル、生飴、生チョコ、生生姜、
テレビ、プラズマテレビ、有機ELテレビ、
胡麻、塩、山椒、ペッパー、なんでもだ。
爆買い中国人はお金があるから、
どんどんカゴに入れていく。
どんどんカゴに入れるから、
どんどんカゴ自体が大きくなっていく。
久しぶりに会った友人に、
「ずいぶんと大きくなったなぁ」って言われた。
自分ではあまり気づかない。
爆買い中国人は、カゴの中に子どもをいれる。
カゴのなかに、バッグも入れる。
キャリーバッグも入れるし、
レンタカーも、パスポートもいれてしまう。
気に入らない店員も、少しの時間入れておく。
逆に、気に入った店員も、少しの時間入れておくのだ。

「ねぇ、あなた、もうそれくらいでいいんじゃないの?」
「いや、まだだ。これじゃあ爆買いじゃない、ドカ買いだ」
「爆」と「ドカ」の上下関係がわからない妻であったが、
夫が言うならそうするしかない。
夫に強く言うと殴られてしまう。
殴られるかチョークスリーパーである。
チョークスリーパーをされたまま、
夫の弟にあごの下の肉をつねられる。
腹は立つがしょうがない。
借金を立て替えてもらっているからしょうがない。

ある日妻は爆買いする夫を殺す計画を立てる。
その名も「爆買い夫殺人事件計画」である。
夫が爆買いしているときに、近くに時限爆弾を置いておく、
夫は、それを買おうとしてカゴに入れる、
カゴに入れた夫はそれが時限爆弾であることを気づかない。
時限爆弾であったとしても時限爆弾が売ってなんていないと思って、
時限爆弾をカゴに入れる。

夫は頭が悪かった。
両親が世界的な大富豪であるにもかかわらず
(大富豪であったしまったから、かもしれない)、
夫は非常に頭が悪かった。
頭が悪いが、金だけは持っていた。
小学生からボディガードが付いていた。
ボディガードは、彼から失礼な態度を受けても、
借金を立て替えてもらっているからなにも言えなかった。
彼はどんどんわがままになっていった。
メダルゲームでジャックポットに絶対に入るようにと店長を脅し、
主人公が絶対に負けないRPGをゲーム開発会社に作らせ、
販売元にそれを流通させ、ゲーム雑誌に取り上げさせ、
レビューがひどい低評価であってもそれを気にせず、
クリアせずにGEOに売り払った。
それくらい彼はわがままなのである。
わがままだけならまだしも、
わがままなうえに買い物中中毒中国人なのである。
買中中なのである。かいちゅーちゅーなのである。

夫のカゴに時限爆弾を入れる「爆買い夫殺人事件計画」だったが、
構想含めて2年半の計画も虚しく失敗に終わる。
いつも通りの様子で時限爆弾をカゴに入れるまではよかったが、
時限爆弾をカゴに入れた後に、爆弾処理班をカゴに入れてしまったため
爆弾処理班が時限爆弾を解除してしまったのだ。
そしてさらに夫は地方警察までカゴに入れてしまい、
妻が夫を殺そうとしていたことが明らかになってしまう。
妻は逮捕され、執行猶予なし、懲役5年の判決を受ける。
夫は頭は絶望的に悪かったが、とてもやさしい人だった。
自分のせいで妻が罪を犯してしまったことを申し訳ないと思っていた。
夫は、両親の猛反対を無視して、妻の罪を無理やりカゴに入れた。

妻の罪をカゴに入れると、夫は爆買いをすることをしなくなった。
なぜ爆買いしなくなったかはわからない。
もしかしたら、夫は、最初から妻の気持ちが欲しかっただけなのかもしれない。
借金を肩代わりするという条件がついた結婚だった。
妻の夫に対する愛などなかった。
お金のために朝ごはんを作り、掃除をして、洗濯をして、
スーパーに買い物に行き、お風呂を洗い、夜ご飯を食べて、お風呂をいれて、
テレビを観て、セックスして、寝た。
夫は、子どもができれば妻の気持ちが変わると思い、
一生懸命セックスした。
4回することもあった。
しかし、妻は子どもができないあれをしていた。
彼の子どもなどつくりたくなかった。
妻には唯一愛した別の爆買い中国人がいて、
その爆買いと結婚したいと思っていた。
しかし、父親の会社がえらい倒産の仕方をして、
莫大な借金を負い、この結婚を余儀なくされた。
妻は父親を恨んだ。恨みまくった。
恨んで、恨んで、恨みすぎたら、一周回って好きになった。
その恨みは夫へ向かった。

夫は妻から恨まれていることをわかっていた。
でも、なにかしらの感情を自分に向けてくれたことがうれしかった。
嫌いでも、一周回してさえしまえば好きになるから、
それを待っていた。
しかし、一周回る前に、妻の恨みはピークに達してしまった。
夫はまずいと思い、妻の恨みをなんとかカゴにいれようとした。
しかし、妻は夫を避け、カゴにいれられないように逃げ続けた。
このままでは、妻がおかしくなってしまう。
なんとか妻の恨みを発散させるために、
爆買いしてきたカゴの中から「殺意」を取り出して、
妻に与えた。
そして計画されたのが「爆買い夫殺人事件計画」である。

夫は妻に殺されてもいいと考えていた。
しかし、それでは妻は殺人犯になってしまう。
妻が殺人犯にならずに、恨みをなくすためには、
計画を実行させるしかなかった。
計画を実行させた上で、それを失敗させる。
それがベストだ。
計画を失敗させるまでは彼の思い通りだったのだが、
彼はえぐいぐらいに頭がわるかったので、
ついでに地方警察までカゴに入れてしまった。
彼は「しまった」と思った。
否、「ミスった」と思ったのである。
妻は捕まったしまった。
どうしよう、どうしよう。
「あ、そうだ、妻の罪をカゴに入れればいいんだ。」
頭が超ベリー悪い夫ならではの発想だった。
常人であれば、ふつうの頭の持ち主であれば、
罪をカゴに入れることなど考えはしない。
しかし、彼は考えたのだ、バカだから。
バカでよかった、と彼は考えない。
彼は自分で自分をバカだと思っていないからだ。

「罪をカゴに入れるにはどうすればいいんだろう?」
夫は、ヤッホイ知恵袋で質問してみた。
しかし、
「質問の意味がわかりません」
「ぜんぜんおもしろくない」
みたいな回答しかこなかった。
知恵袋マイスターなんてどうかしてるやつばっかりだ、
と思った。

カゴを作っている会社に電話をしてみた。
そしたら、
「すみません、そのようなケースを想定して作られていませんので、
 通常の使用方法以外の使い方については対応できかねます」
といった返答が来た。
なにを言っているのかわからなかった。

だれに聞いてもわからないので、
とりあえず罪をカゴに入れてみることにした。
妻が入っている刑務所の前まで行き、
妻の罪をカゴに入れてみた。
少し入りにくかったが、なんとか入った。
なんだ、けっこう簡単に入るじゃないか、と安堵した。

彼が妻の罪をカゴに入れてから8年。
彼ら爆買い夫婦中国人は幸せに暮らしている。
夫は爆買いせずに、毎日、必要な分だけ買うことを心がけている。
「まとめて大量に買うということは、使うことを考えて買っていない。
たぶん必要になるだろうという憶測で買っている。
必要じゃないということが多くあった。
それは無駄な買い物である。
電化製品や、衣服などなら、譲ることもできるが、
食品であれば、それは腐りゴミとなる。
今中国では食品の廃棄が問題になっている。
人口は増え続けているが、地球の食料資源には限りがある。
個人個人が、自分に必要な分の資源をしっかりと見極めて、
無駄にならないように消費していくことが、
人類を、地球を守るために必要なのではないか」
「なに言ってるの、急に」
幸せである。

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芥
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