ビールがおいしくなってきた。

仕事から帰る帰り道、コンビニでビールを3本ほど買って家へ帰る。
つまみは静岡のスルメを通販で大量に購入しているので問題ない。

家に帰って電気をつける。
電気をつけた後にテレビをつける。
テレビをつけた後にパソコンをつける。
パソコンが起動するまでの時間テレビを見ていることになる。
先にパソコンをつけてからテレビをつけたほうが
待ち時間としては少なくなると思った人はいるだろう。
なぜこいつは先にテレビをつけるんだ。馬鹿ではないのか。
効率わる!こいつ、効率わるっ!
と罵声を吐いてることだろう。
しかし、こちとら国立大学出の大手家電メーカーのサラリーマン。
そんな簡単なことがわからない男ではない。
わかっているのだ。
テレビを先につけたほうが、待ち時間が少なくなることくらい。
しかし、きみは待つ時間にしか目を向けていない。
時間とは非常に体感的なものであり、
たのしくてしょうがないときの1時間は55分に感じられ、
つらくてしかたがないときの1時間は1時間5分に感じられるだろう。
そういうことなのだ、相対性というやつは。
僕は、テレビを先につけたほうが待ち時間が少なく感じる。
短くいえばただそれだけなのだ。

パソコンが起動したらまずトゥイッターをひらく。
トゥイッターをファイユーファックスでひらく。
ユセイン・ボルトが金メダルをとったことををつぶやく。
ひとつめのつぶやきが終わったときに僕は1本目のビールを開ける。
まずとりあえず一つつぶやくというのは、
タイムラインにしおりをつけることだとぼくは思っている。
そこで一つつぶやいておけば、そこから下のタイムラインを読むことになり、
どこまで読んだかが非常に明確になるのだ。
お分りいただけただろうか?

タイムラインを下にスクロールしながら、
(あ、そうそう、僕は基本的にパソコンでしかツイッターをしない。
 スマホで常にトィッターをしてると、集中が途切れてしまうからだ)
1本目のビールをごくごくと飲み干した。
うまい、うますぎる。
なんだか今日のビールはうますぎる。
3日連続猛暑日だったからだろうか、
4日間なにも食べていないからだろうか、
昨日愛犬のラガーが死んでしまったからだろうか。
ぼくはわからないままでいる。

ツイッタラーを見終える前に、ビールを3本空けてしまった。
初めてのことだ。
いつもより、みんなのつぶやきの量が多いのか、
それとも、僕の飲むペースがいつもより早いのか、
明らかな後者であった。
僕はビールを飲まずにツイッティーをしたことがなかった。
8年の習慣は僕を不安にした。
僕は何も考えずにコンビニに走った。

コンビニで持てるだけのビールを買ってきた。
300m先のコンビニだったけど、
途中で指がちぎれそうになった。
しかし、僕の指はちぎれていない。
ちぎれていないその指が、ビールのプルタブを開けるのを、
僕はゆっくりと眺めていた。

コンビニで買った45本のビールをすべて飲み干してしまった。
まだトルルルィッターは読み終えていない。
というか、ほとんどテレビを見ながら飲んでいた。
笑ってこらえて2時間スペシャルをやっていたからだ。
僕はダウンタウンDXが大好きなのである。
とにもかくにもまだタラッターは見終えていないわけだ。
ビールを買いに行くしかない。
またなくなってたまるものか。
僕は愛車のミニクーパー(5ドア)を引きつれて、
24時間営業のイオンまで向かった。

ビールを7箱買った。
店員さんが台車で車まで運ぶのを手伝ってくれた。
「会社の打ち上げですか?」と聞かれたが、
「あ、そうなんですよ」と適当に流しておいた。
「家で一人で飲むんです」なんて言ってごらんよ。
店員の困惑した顔が目に浮かぶだろう。
店員だってそんな気持ちになりたくて言ったわけじゃない。
何気ない会話を交わすことで少しでも距離を縮めたかっただけなのだ。
ならそれでいい。

家に帰って、ビールの箱を空けて1本取り出す。
もちろん冷えていない。
氷を入れるのは邪道だとは思いながらも、
ぬるいビールを飲むよりはましだ。
グラスに氷を入れてビールを注いだ。
冷凍庫と冷蔵庫とチルドにビールを入るだけ入れておいた。

氷の入ったビールを飲み始めて気付いた。
飲酒運転している。
なんてことだ会社でコンプライアンス副委員長をこの私が飲酒運転をしていた。
おそろしい。なにがおそろしいかって、飲酒運転に気づかなかったことだ。
でもよかった。捕まらなくてよかった。
店員さんも、車まで運んでなんとも思わなかったんだろうか。
よかった、よかった。店員さんがこどもでよかった。
飲酒運転なんて知らなかったんだろう。
というか、こどもだから、ぜんぶ俺が運んだ気がしてきたぞ。
子どもが夜に働くなんて、なにをしてるんだ。もう。

氷で冷やしたビールも、なかなかおいしかった。
むしろ、おいしかった。
2本目は冷凍庫に冷えてるビールよりも、
外に出ているぬるいビールを氷で冷やして飲んだくらいだ。
うまい、びっくりするくらいうまい。
なぜにこんなにうまいのだ。
「ビールウマクナール」を飲んでいたかと思ったが、
そんなのは飲んでないし、存在しない。
あ、でも、このスルメが「ビールウマクナール」か。と笑った。
顔はどんどん赤くなる。
体もどんどん赤くなる。
目が見えなくなってくる。目がなくなってくる。
ろれつが回らない。口がなくなってくる。
匂いがわからない。鼻がなくなってくる。
頭がいたい。頭がなくなる。
ものがつかめない。腕がなくなる。
足がもたつく。足がなくなる。
胃が痛い。胃がなくなる。
世界がぐわんぐわんしている。
まるで水の中にいるみたいだ。
なんと水になってしまった!
いや違う!これはビールだ!

嗚呼!ぼくはビールになってしまったのだ!

大きな音に気がついた妻が二階から降りてくる。
「ああもう、片付けないで寝やがって。
 まだ残ってるじゃない。もったいない」
妻はぐびぐびを僕を飲み干してしまった。

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芥
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