飲む派と凍らせる派、どっち派ですか?
小さなかごに詰められた色とりどりのお菓子
両手からあふれるほどのお菓子を買っても
300円あればおつりがくるお菓子屋さん
夢をたくさん売ってくれる場所
そう、駄菓子屋である。
子供の頃から夢中になっていた…訳ではない。
子供の頃は同じ小学校のガキ大将が毎日のように陣取っていて怖くて入れないでいた。
偶々通りがかった時に知らない子達だけだった時もあったが「ふーん女子も来るんだ」と白々しく物珍し気に遠巻きに見ていて結局入ることはしなかったし本当に店の中に誰もいない時も誰かに見られたらどうしようと周囲の目を気にしたりよく分からない理由ばかりつけてやっぱり入らない、
そんな小心者な子供だった。
ようやく入れるようになったころには
お酒を窘める年齢になっていた。
というか忘れていたのだ。
駄菓子屋がそこにあったことも
入りたかったのに難癖つけて入らなかった臆病な自分も。すべて忘れていた。
偶々午後に入っていた授業がすべて休講になり偶々早く帰って来た時、いつもと違う帰り道をしたときに発見したのだ。
しばらく道に突っ立っていた。町の開発が進み昔ながらの店が立ち退く中でその駄菓子屋は平然と建っていた。昔、目の前まで来て入れなかった時とほとんど変わらない…むしろパワーアップしたようにも見えるその店先に吸い込まれるように僕はあれだけ気になっていた周りの目に臆せず入っていった
「…ごめんください…どなたかいらっしゃいませんか…」
そろりと店の中に入った
お店なのだから入店時の挨拶は
必要ないだろと思うかもしれないが
道に面した一軒家の庭先に増築して
そのまま駄菓子販売ブースにしたような作りの為
ついついごめんくださいと挨拶したくなるものだ。
真夏の昼間にも関わらず
お店の中は薄暗く涼しかった。
スッと汗が引いていくのが分かる
蛍光灯が意味をなしていないほどには
薄暗い店内をゆっくりと見渡せば
壁一面に日焼けしたおもちゃの箱が積み上がり
木目の天井からは模型の飛行機が
釣り下がっており
壁には振り子のついた時計が掛かっていた
一軒家と融合しているからなのか
微かにテレビの音が聞こえてきたり
扇風機が回る生活音や風鈴の音がする。
ひとたび、うだるような暑い外に出れば
開発し終わった駅がさほど遠くない場所に
見えるというのにまるでどこか遠くの時代を
そのまま切り取ってきたような
そんな空間がそこにはあった。
駄菓子を買うスペースは
大人が2人横並びになるだけで
窮屈であると感じてしまうだろう。
そもそも店内も大人が4人もいたら
息が詰まりそうなほど狭い空間なので
仕方ないのだが…
でも、子供の頃は
この狭い空間に入りたくて仕方がなかった。
子供が来る前だからなのか普段もそうなのかは分からないが綺麗に並べられた駄菓子には厚紙に手書きされた【20円】や【40円】という文字が視界に入った
背伸びして購入したブランドものの財布などに支払ったお金があれば「ここからここまで全部下さい」が出来るようなあまりにも狭くて小さな場所だったが、僕はその時初めて魅了され続けていたのだと知った。
5分も経っていなかったと思う。
初めのごめんくださいの声が聞こえていたのかは分からないが入店してからぼんやり立ち尽くしていれば奥から小柄な女性が出て来た。
恐らくというか間違いなくこの駄菓子屋の店主だろう。
よっこいしょと掛け声をしながら
店と家を繋ぐ60cmほどの段差を靴を履き替えながら降りてくる。そういえば外からは庭先を潰して駄菓子屋を作ったように見えたのだが、もしかしたら昔ながらの土間玄関を潰して駄菓子屋にしたのかもしれない。60cmぐらいの段差といえば
古民家の上り框を彷彿とさせる。
「ごめんなさいね、在庫確認してて席外してて、このカゴに買うもの入れてくださいね」
大人が来ることは珍しくないのか、はたまた自分が大人に見えない格好をしているのかは定かではないが訝しむような表情などひとつもせずに朗らかに子供に接するように手作りのカゴを渡された
…駄菓子屋には入りたくてしょうがなかったくせに駄菓子のことに詳しくなくて戸惑ってしまう。かつての遠足の記憶を頼りにクジ付きのガムを数個カゴへ入れるがわざわざ店に来た割には買うものがしょぼくて訳の分からない焦りを覚える
せっかく引いた汗がまた出てきそうだった。
「夏は置いてないんですよチョコレート関係、溶けちゃうから」
世間話でもするのか、店主は声をかけてきた
もしかしたらあまりにも戸惑っていたので
目当てのものが無いと思われたのかもしれない。
「ああ、そうなんですね、夏のオススメありますか?」
「これとかかな?酸っぱいの大丈夫なら、すもも漬け美味しいですよ中には凍らせて食べる人もいるようなんです」
差し出された片手に収まる程度の小さな透明なパックは鮮やかな色の液体が入っている。
見るからに体に悪そうな色をしているが
パッケージの色が赤いだけかもしれないと思わず受け取ってしまった。が、やはり透明なパックに赤い液体に浸かったすももが2個入っているのは変わらなかった。
「常温と凍らしたので2通り食べてみます」と適当なことを言ってパックをもう一つカゴに入れる
あとは見たこともないラムネやグミを入れてお会計…
300円支払ってお釣りが来てしまった。
両手では収まらない量を買ったのにだ、
会計の時に質問された
「ここら辺の人ですか?」
「ええ、〇〇小学校に通ってました」
小学校の学区は広いようでいて狭い
通っていた小学校の名前を出せば地元民であることは明白になる。
「また来てくださいね」
その言葉と共に駄菓子屋の外へ出た。
焼け付くような夏の暑さは気にならなかった。
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自宅にて
「ん?ストローがついてるってことは…ええ!!この赤い液体飲むの!?嘘だろ!??」
「あ、案外美味い…また買いに行こ」
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駄菓子道の極みはまだまだ遠い
fin
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