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そして鮭はしまむらに帰る~マタニティ服の旅~

しばらく前から、寄り道の機会があると地元の「しまむら」に行くようになった。そう、誰もが知るファッションセンターである。

きっかけは妊娠中、着るものを探していたことからだった。お腹が本当に大きいのは数カ月間。なるべくお金をかけずに服を調達したい。

ネットであれこれと探したが、マタニティ服と称して販売されているものは、どれもけっこう値が張ってしまう。産後も着るかどうか怪しいデザインも結構ある。

検索にも疲れたある日、ふらふらと地元スーパー3階の、かの地を訪ねたのが始まりである。

実を言うと、しまむらに来ることは二度とないだろうと思っていた。

しまむらは10代前半の頃、親に車で連れられて服を選んだ場所である。当時は今よりずっとブランドイメージがぱっとせず、同級生に遭遇すると少しいたたまれない気持ちになった。

そんなこともあり、未熟な思春期にお世話になったここには、その後自主的に足を運ぼうとはしなかった。

駅ビル、古着屋、セレクトショップ。自由に行ける場所、買えるものの範囲が広がるにつれ、しまむらはすっかり記憶の彼方に遠のいてしまった。

ところがである。おそらく20年近く経って訪れたそこには、まさに自分がいま求める服があった。

「大きいサイズ」として、4Lくらいまでの服がずらりと並んでいたのである。シンプルなデザインのものも多いので、手持ちの服とも合わせやすい。さらに育休中の身には、大変有難い値段である。お値引きシールが貼ってあると、よりいっそう心が弾む。

出産手前の写真を見返すと、しまむらのワンピースを着た自分が沢山写っている。まるで産卵を控えた鮭が、若かりし頃育った川に帰ってくるみたいだ。

また産後は縁が途切れるかと思いきや、新顔も増えて皆活躍中である。吐き戻しやよだれ、米粒が次々飛んでくる中では、1ケタ違う繊細な服たちは、その持ち味を発揮できないのだ。この文章を書いているいまも、しまむらのデニムシャツワンピースを羽織っている。

産前の予想と違ったのは、いまの自分は、それで十分足りているということである。

その時々の暮らしに合った服を着ること。無理のないワードローブであること。それが本当の服との付き合い方なのかもしれない。

ただいま、しまむら。

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