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そうだ、猟師になろう
2021年11月。
私は三重県多気町にある実家で、母とともに鹿肉ジャーキーを作っていた。
いつもは父も一緒に作るのだが、この日は山へ狩りに出かけていて、ふたりきりの作業だ。
ジャーキーの乾燥時間は10時間。
お昼までに乾燥機に入れないと、取り込むのが夜中になってしまう。
時刻は午前10時をまわっている。あせりがつのる……。
不意に、庭の敷石を車が踏む音が聞こえた。
ゴム手袋を脱ぐのがもどかしく、そのまま様子をうかがっていると、ジャーキー部屋の勝手口がガチャリと開いた。
「おっちゃんや!」
おっちゃんとは、父の弟で、私のおじさんにあたる。
小さい頃はおっちゃんの家によく遊びに行ったが、10年以上会っておらず、実に久しぶりである。
「祐子かー。久しぶりやのう。なんや、ジャーキー作りに帰ってきとったんか。おっちゃんなあ、小魚酢漬けにしたやつ持ってきたんさ。まー、食べてみ。珍しいもんやで……」
おっちゃんはしゃべりだしたらとまらない。
しゃべり続けるおっちゃんをジャーキー部屋に招き入れ、製造工程を見てもらった。今は畑仕事に精出しているが、おっちゃんもかつては猟師だったのだ。
「父ちゃん、今日は山へ行っとるんさ。鹿が獲れとるとええんやけどなあ」
私がそう言うと、おっちゃんは、ちょっと考えてから言った。
「祐子、お前が父ちゃんを手伝わんでどうするんや。お前も山好きやろ」
おっちゃん、そのとおりや。
私は誰かにそう背中を押してもらいたかったのだ。
ジャーキーを取り込むのは深夜になるなと覚悟しながら思った。
そうだ、猟師になろう、と。