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エモい
2、3年前に一緒の職場だった後輩の社員からLINEが来た。
「時間ある時、電話ください」
その後輩が都内の店舗に転勤になってから2か月に1回くらい近況報告をしている。
仕事は真面目で思考力も行動力も有り、非常に優秀な後輩だ。
地方から都内の職場へ栄転が決まり、一緒に働けなる事は寂しかったが、連絡はずっと取り合おうと決めていた。
後輩は「エモい」とよく言っていた。
店内で流れているBGM
車で移動中に見つけた小動物の死骸
ざる蕎麦をフーフーしている私と目が合った時
カッコつけたいのか事あるごとに、
「エモいっすね」
と言ってきた。
その使い方は正しいのかと何度も聞こうとしたがいつも黙って聞いていた。
仕事が早く終わった帰り道、家の近くのコンビニでキレートレモンを買っていたらLINEが来た。
「今なら電話できるよ」
と返信したら、すぐに着信があった。
「お疲れ様です」
落ち着いた声のトーンの中にどこか照れ臭そうで、嬉しそうないつもの様子ではなかった。
今の配属先で上手く行ってないみたいだ。
人間関係のトラブルは仕事に真面目な人ほど馬鹿馬鹿しく感じるのかもしれない。
仕事と直接関係ない事に時間とエネルギーを使ってられないのだろう。
とくにアドバイスも無く話を聞いていると「夕焼け小焼け」のチャイムが鳴った。
ここらの地域では夕方5時になると夕焼け小焼けが聞こえて来る。
「なんかいいっすね」
電話の向こうの後輩にも夕焼けが聞こえたのだろう、鼻を啜った後にボソッと呟いた。
私はすぐさま
「エモいやろ」
と後輩に聞いた途端、イヤホンの向こうから街宣車の歪みまくったでっかい音が聞こえてきた。
ノスタルジックな雰囲気をかき消されて、少しの沈黙の後2人でクスクス笑い出した。
「エモいっすね」
照れ臭さそうに後輩は言った。