荒波のうえで

不思議な夢をみました。

でも、まだ目覚めてないような気がします。現実にいるはずなのに、どちらが夢かよくわからないからです。


そこはヨーロッパでした。いえ、ヨーロッパのような街並みではありましたが、まったく別の場所かもしれません

レンガ造りの家。それぞれの小さな丸い窓には、可愛らしい大きさの花が色とりどりに飾られていました

3階建でカラフルな壁と、赤茶色の、ときどき寒色のさわやかな屋根が、この道のずっと奥のほうまでずらっと並び、

その続く道はどこまでもボコボコとして不均等で、馬車が通るとカタカタと耳心地よい音がしました

ずっと先のほうまで続いているようで、でもどこかこの街の広さをだまされているような

ほんとうは、小さな国のすみにある小さな小さな街なのだけど、この道に錯覚させられているような。

そんな広大な街に、わたしはぽつんと立っていました。

なにをしに来たのかまったく覚えていなかったし、自分がどこから来たのか、本当にあそこから来たのかはっきりしませんでした。

ひとまず歩いてみます。

とても綺麗な街です。ひとにはあまり出会いません。

どれくらい広いかわかりませんが、勇気をだして周囲をぐるっと一周してみました。

時計はどこにもなかったので、太陽のある方角から歩きました。西、北、東、南の順でした。

しばらく時間が経ったと思います。

けど、ここには”時間”がないのか、暗さは変わりません。太陽は見えて光は明るいのに、終始、街に薄い紺色のベールがかかっているような雰囲気でした。


一周してみてわかったのは、ここは自分がいた世界とはまったく違う世界だということでした。

4つの方角の端に行くと、それぞれの海がありました。

静かな海、小さい海(あれは湖だったのか)、森のような海、荒波の激しい海

そしてわたしはいつのまにか、荒波を見つめていました。


ふと振り返ると、人が立っています。ここはどこですかと聞いても答えてくれませんでしたが、ひとこと、大陸だと教えてくれました。そして、この大陸は荒波のうえにあり、わたしたちはそこに立っていると教えてくれました。でも目的は教えてくれません。

とにかく、わたしたちは「当事者」であることを伝えられました。

すると突然、大勢が行進を始め、こちらに向かってきています。どこから来たのか

こんなに探しまわったのに、いままでこの人たちはどこにいたのか

ただ、ひとつ不気味なのは、その大勢が

それぞれ着ている服、かぶっている帽子、履いている靴、身長も体型も、顔も年齢もまったく違うのに

なんというか、行進の仕草と進み方、そして顔つきが恐ろしいほど似ていることでした。

みな一様に、手を動かし、足を出し、その力強さはひとによって異なりましたが、とにかく、行進に不慣れながらもそろっていました。

「子どもは少ないんだなぁ」と思ったことは置いておいて、

ここに巻き込まれてはいけない気がすると感じました。ここを通ったら危ない


強行突破するしかありません。一歩下がれば荒波にのみこまれ、立ち止まっていれば行進に巻き込まれます。ただでさえここは揺れているのに、もたもたしていられません。

これ以上不安定な場所にはいられません。

思い切って、大勢のなかに突っ込んでいきます。跳ね返されてもどうってことないです。途中、腕をつかまれそうになりました。思いっきり引きはがします。足をひっかけられて、激しくころびました。すりむいたけど、起き上がれました。

なにか、途轍もない力にとりつかれたように、一目散に逃げました。


長い長い隊列をやっと抜け出せたとき、やっと自分はどこにいるのかわかりました。

大きな大きな船の上でした。

小さくて広い街がすっぽりとはまってしまう、壮大な船の上にいました。

だから、みんな海の上にいることを忘れてしまっていたのです。きっと


ああ、やっと思い出しました。わたし自らこの船に乗ってきたんです。そういえば、あの入り口から。

帰らないと。

早く並ばないといけません。帰る出口は案外見つけるのに難くありませんでした。すぐそこにあります。でも、人が並んでいます。


しばらくは、この荒波のうえで揺られている必要がありそうです。

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