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歯車の塔の探空士シナリオ「空の大火炎」
はじめに
本稿は,富士見書房より出版されているTRPG「歯車の塔の探空士」のオリジナルシナリオです.遊ぶためには,ルールブックが必要です.
2021/3/7 一部誤りを修正しました.
プロローグ
近ごろギルドを騒がす噂.鳥かクジラか,それとも未知なる存在か.
空に浮かぶ炎のようだった――目撃したという探空士たちは,口を揃えてそう言った.
そんな折,一人の若者が転がり込んで来た.
――燃える炎に襲われて,兄貴が取り残された.
――誰か,兄貴を助けてくれ.
前途ある探空士を救うため,君たちは空へと漕ぎ出す.
歯車の塔の探空士「空の大火炎」
燃えるような冒険が,君を呼んでいる.
プリセッション
新規PC・新規飛空艇を想定している.
セッション開始前に,お互いにPCの自己紹介をしよう.
オープニングフェイズ
ヴィクトリア・シティ中層,チクタクヒル.航空ギルドは慌ただしかった.大口の依頼が入り,多くの探空士たちが出発の準備で忙しく走り回っている.もっとも,まだ新人の君たちには関係がない話.喧騒をよそに,なにか手頃な依頼はないかとたむろしていることだろう.
そんな中,階下の船着き場から,慌てた様子でギルドの係員が走ってくる.
「おい――誰か,手の空いているやつはいないか!?」
そう叫びながらあたりを見渡し,一番近い暇そうな探空士――キミたちのことだ――を指差してまた叫ぶ.
「おい,手伝ってくれ! 怪我人だ!」
PCたちが承諾すると,船着き場に案内される.
そこには大破した小型の飛空艇があり,その隣にはモダンタイムスと思われる若者が一人,血を流して倒れている.
駆け寄って声をかける,手当のために近づく,などの行動を取ると,若者はうめき声を上げながら息も絶え絶えにこう言うだろう.
「――炎が,襲ってきて……兄貴が,兄貴が取り残されてるんだ……頼む,兄貴を,どうか兄ちゃんを助けて……」
若者の傷は浅いものの,全身のあちこちに火傷を負っており,重傷だ.係員を手伝って彼を医務室に運び終えると,係員は君たちにこう言うだろう.
「助かった,礼を言う.あれは兄弟二人で運び屋をやっている,チャンドラー兄弟の弟,レクスだ.兄のカイルは取り残されていると言っていたが――お前達,手が空いているなら,探しにいってくれないか?」
係員からの依頼の詳細は次の通り.
・チャンドラー兄弟はフロンティア方面からの荷物を運んでいるところだった.航路はわかっているから,それを逆にたどってほしい.
・カイルが取り残されていると思われるのは,どこかの無人塔の上と思われる.航路上には,小さい無人塔が乱立する空域があるので,そのあたりを重点的に探してほしい.
・もしカイルを発見した場合,救助してほしい.
依頼を受けるのであれば,係員は次のように付け足す.
「ありがたい.チャンドラー兄弟は若いが腕利きで,頼りにされているんだ.彼らが何に遭遇したのかはわからないが,くれぐれも気をつけてくれ」
ここで,レクスの言葉を聞いていたPCは「教養:6」の判定をする.成功すると,最近航空ギルドを賑わせている,ある噂のことを思い出す.
・これまで目撃されたのことない,巨大な生物が目撃されている.
・鳥のように見えた,ソラクジラほど巨大だった,など,証言はまちまち.
・共通するのは,それを目撃した時,燃えるように熱かった,ということ.
また,チャンドラー兄弟の飛空艇を調べるならば,「教養・感覚:7」で判定する.成功すると,船体のあちこちが焦げたり溶けたりしているのがわかる.船体はただ衝撃によって破損したのではなく,高熱にさらされた形跡があるということだ.
PCたちが出発の準備を整えたら,フライトフェイズに移行する.
フライトフェイズ1
チャンドラー兄弟が使用していたフロンティアとの定期連絡航路を逆にたどることになる.
サンプルエリア「定期連絡航路」を使用する.
チェックポイント:嵐の前触れ
チェックポイントでは,「嵐の前触れ」の航行イベントが発生する.
航行イベントの処理を行う前に,以下の描写を読み上げる.
――遠雷.行く手に黒い雲が立ち込めている.空気が湿り気を帯び,計器の針が嵐の訪れを告げる.行く手に困難が待ち構えていようとも,ここでフネを止めるわけにはいかない.何が起こるかわからないが,今は進むしかないのだ.
クエストフェイズ1 嵐の中の収容
このクエストのリミットは5ラウンドである.
まず,以下の描写を読み上げる.
無人塔が立ち並ぶ空域に入った.
カイルが身を寄せているのはこの空域のどこかだろう.
事態は一刻を争う.急いで探そう.
Stage 1
カイルはどこかにいないか?塔の陰にまた塔があり,なかなか見通しが悪い空域だ.時間をかければ,寒さにどんどん体力を奪われてしまう.
ステージエフェクト
このラウンドに対処判定を行ったPCは,【生命点】を1点減少させる,
対処判定
カテゴリ「偵察系」のパーツ/「感覚:7」 もしくは,
カテゴリ「操舵室」のパーツ/「感覚:9」
Stage 2
焼け焦げた飛空艇のパーツのようなものを発見.もしかしたら,チャンドラー兄弟の飛空艇の一部かも.接近して確認しよう.入り組んだ塔のせいで風の流れが複雑だ.流されないように注意しよう.
ステージエフェクト
飛空艇は「D/1〔大揺れ〕」のダメージを受ける.
対処判定
カテゴリ「操舵室」のパーツ/「感覚・教養:7」
Stage 3
突然,塔の陰から大量の飛行生物が飛び出してきた!緊急回避!
ステージエフェクト
飛空艇は「D/3」のダメージを受ける.
対処判定
カテゴリ「操舵室」のパーツ/「感覚・技術:7」
Stage 4
いたぞ,カイルだ!だが,着陸する場所はない.
やることはひとつ――命がけの吊り下げ救出作戦だ!
ステージエフェクト
②の対処判定を行ったPCは,【生命点】を1点減少させる.
対処タスク
以下の①と②を同じラウンドに成功
① カテゴリ「操舵室」のパーツ/「感覚・教養:7」
② 船内で一番「下」のパーツ/「身体:7」
幕間
やっとの思いで救出したカイルは,全身のあちこちに火傷と外傷を負っており,かなり衰弱している様子だった.キミたちはカイルを飛空艇に運び入れ――空き船室か倉庫に寝かせ――身体を温め,傷の手当をしてやった.
やっと口がきけるようになったカイルは,
「レ……レクスは? 弟は……無事なのか?」
と,かすれた声でキミたちに問うだろう.
弟が無事だと知った彼は安堵の息をつき,君たちに礼を言う.
さあ,今度は急いでヴィクトリア・シティに戻ろう.カイルを,弟のもとへ連れて帰るのだ.
フライトフェイズ2
サンプルエリア「ターゲットを追え!」を使用する.
チェックポイント:急変
チェックポイントでは,特殊航行イベント「急変」が発生する.
航行イベントの処理を行う前に,以下の描写を読み上げる.
カイルが急に苦しみ始めた.急いでフネを進めたいところだが,まずは彼の容態を安定させなくてはならない.探空士は医者じゃあないが,いつだって自分たちの身体と向き合いながら旅をしてきた.知識と知恵を総動員して,カイルを救うのだ.
イベント名:急変
効果:キミは「技術・教養:9」の判定を行う.もし,飛空艇に「医務室」のパーツが配置されているならば,代わりに「技術・教養:7」の判定を行う.この判定に成功しない限り,飛空艇コマはフライトエリア上を移動することはできず,次のシーンの航行イベントも,自動的に「急変」となる.
クエストフェイズ2 怪獣決戦
このフェイズは戦闘フェイズである.まず,以下の描写を読み上げること.
突如,奇怪な音が空をつんざいた.
船体後方,雲を突き破って,とうとうそれが姿を表す.
その姿は猛禽類に似ていた.翼を広げ君たちの船に迫ってくる.
ただしその体躯は飛空艇と同じかそれ以上に巨大で,砲門よりも大きい嘴と,錨を思わせる鋭さの巨大な爪を備えていた.
何より特徴的なのは,その翼がまるで燃えているかのように揺らめいていることだった.
怪物は再び叫びを上げると,口から炎を吹き出した.
船内にいてもわかるほどの熱気が襲う.
噂通り――いやそれ以上の脅威であることは,誰の目にも明らかだった.
こいつをなんとかしなくては,無事の帰還はありえない.
総員,戦闘配置につけ!
敵飛空艇(浮遊生物):空の大火炎・ラドフロン
ラドフロンに関するルール
・ラドフロンは浮遊生物ではあるが,パーツごとに「中破」「大破」があるものとして扱う.
・ラドフロンの耐久度は3,速力は6.
・各種判定において,得意・苦手はないものとして扱う.主導権チェックも行う.
・ラドフロンはムーブは行わず,アクションではパーツ一つを選択しそれによる攻撃を行う.
・ラドフロンは弾道学と回避運動のスキルを使用できる.
・ラドフロンへの侵入は可能である.ただし,パーツの破壊には「技術・身体:7」の判定に成功することが必要である.この時,白兵判定に失敗すると,生命点を1点失う.
ラドフロンの各パーツの説明
頭部:「大破」すると行動不能になる
胴体:「大破」すると【距離カウンター】上の移動ができなくなる
嘴:口から高温の火炎を放射する(火炎放射器に相当)
羽根:羽ばたきで熱風を起こす(カロネード砲に相当)
脚部:巨大な鉤爪で獲物を鷲掴みにする(アンカーに相当)
尾羽根:「大破」すると回避運動を行えなくなる
翼部:バラストに相当
装甲:圧延装甲に相当
エンディングフェイズ
ラドフロンを撃退すれば,ラドフロンは君たちの追跡をやめ,何処かへ飛び去っていくことだろう.あとは滞りなく,ヴィクトリア・シティへと帰還することができる.
カイルは火傷と外傷に加えてかなり衰弱していたものの,奇跡的に一命をとりとめる.傷が癒えたら,再び空を飛ぶことを目指して,弟のレクスに支えられながらリハビリに励むことだろう.
君たちは噂の大怪獣の生き証人として,そして有望な若者の命を救った勇敢な探空士として,一躍時の人となるだろう.
この大空には,まだまだ「未知」が待ち受けている.
誰もがその事実に心を震わせ,次の旅へと思いを馳せることだろう.
以上でセッションは終了となる.お疲れ様.
余談とおわりの挨拶
はじめに余談から.もし「トロフィー」を獲得するのなら,「ラドフロンとの戦闘後,いつの間にかキミたちのフネに落ちていた,『燃えるような紅い羽根』」を提案する.
勿論,これはあくまで提案なので,参加者たちで自由に話し合って決めてほしい.
……さて,商業版は発売されたばかりのタイトルですが,同人時代からスカイノーツが大好きです.
ご祝儀ということで,とにかく早く公開することを目指しました.
フライトフェイズはサンプルを使用したし,実はテストプレイはできていないません.ただ新版ルールブックは読み込んだつもりなので,ルール上困ることはないと思います.
もし何か問題があったらぜひ教えてほしいです.
最後に.
著者の中西先生,商業版出版おめでとうございます.
みんながスカイノーツを遊んでくれますように.
蒸気と冒険の飛空艇TRPG「歯車の塔の探空士」は冒険企画局の著作物です.